そんなことまで対策してない!!二人の馴れ初め編 静かな部屋にカリカリとペン先が文字を紡ぐ音が響いている。
紙の上には口下手な自分が思い付く限りの彼への思いがたくさんたくさんつまっている。
カリカリ……カリカリ…‥……
便箋5枚分にもおよぶけして送る事のないこの手紙は所謂ラブレターというもので、ダンデがキバナに恋をしてから、キバナに対して好きだ!と胸を踊らせるたびに書いてはキバナから貰ったクッキーの缶詰めにしまい書いてはしまいをしているうちに一枚、また一枚と封筒が増えていき今では缶詰めに収まりきらなくなりそうな程になっている。
今日は、バトルの後にタオルを忘れたダンデにさっとタオルとドリンクボトルまで差し出してくれた。
「あ、あり…がとう」
「いいよ、俺様いつもお前がなにか忘れた時用に常に予備持つようにしてるし」
「俺がなにか忘れた時用に?」
「あぁ、チャンピオンのライバルたるもの対策は常に怠らないようにしてるからな」
そういってキバナがニカッと笑う。
それがあまりにかっこよくて、キバナと分かれた後にダンデはローズタワーの自分の執務室に引きこもりひたすらに手を動かす。
ライバルにも優しいところが好き、笑顔が好き、バトル中の真剣な瞳が好き、二人でキャンプしたときにリザードン級のカレーが出来上がった時の嬉しそうなかわいい笑顔が好き、ボールを一度に2つ掴める程大きな手が好き、声が好き、少し見える八重歯が好き…‥……上げても上げてもきりがないくらいにキバナの好きなところが溢れ出す。
便箋が6枚になったところで漸くダンデは手を止めた。
「またこんなに書いてしまった……」
そう呟きながら慣れた手付きで便箋を封筒へしまいキバナの瞳の色の蝋を溶かしスタンプをのせ、気持ちと共に缶詰めへ閉じ込めるために蓋を開ける。
「もうそろそろこの缶詰めにはいりきらなくなるなぁ……分けるか……」
そんなことを言いながら今まで書いた手紙を缶詰めから取り出しとりあえず……と大きな封筒に入れて脇にあった他の書類の上ぽんっとおいた。
その時執務室の扉が叩かれスタッフが入ってくる。
「すいませんチャンピオン来週の病院へのチャリティー訪問についてご相談がありまして」
そういうスタッフの手には大きな封筒があり、そのなかから取り出された書類を受けとる。
「今度のチャリティー訪問は、ナックルシティのジムリーダー、キバナさんとの訪問となります。」
「キバナと?」
「はい。今回の訪問先の病院がナックル第一病院なのでせっかくなら、ナックルシティのジムリーダーもと上からの指示がありまして」
「そうなのか」
「書類の内容を確認していただいて大丈夫そうならサインをいただいても良いですか?明日ナックルシティへ送りますので」
「キバナのところへ?」
「はい」
「そっ!それなら!俺がこの封筒ごと届けに言ってもいいだろうか?今日にでも!すぐに!」
少し声がひっくり返りかけたがキバナに合法的に会えるチャンス、こんなの逃すなんてあり得ないと思ったダンデはそんなことを思わず口にしていた。
スタッフは少し考えた後
「チャンピオンにご迷惑でなければ……お願いしても良いですか?明日で大丈夫ですけど」
といった。
ダンデはそれに
「いや、今日にでも!行ける!」
と言った。
スタッフはそんなダンデにフフッと笑った後
「チャンピオンは本当にキバナさんの事が大好きですね」
と言う。
ダンデは一瞬ビクリとしたが、すぐにスタッフに笑顔を向け
「あぁ、キバナは俺の大事なライバルだからな!」
と答えとりあえずサインをした後に先に仕事を片付けるべく書類をいれた封筒をラブレターが入った封筒の上においた。
一方その頃キバナは
「あー、やっぱりダンデとの試合最高だったな……」
そんなことを呟きながら執務室のソファーに寝転びスマホをポチポチとしていた。
画面にはダンデに向けたメッセージが表示されている。何度も書いてはけして、書いてはけしてを繰り返してかれこれ数年。いつまでも下書きに残ってるこのメッセージの日付は6年前が表示されている。
6年前にダンデに初めてあって一目惚れして、バトルの後即効連絡先を交換しそのままの勢いで打ち込んだメッセージ。
まるでラブレターみたいじゃないか!と打ち終わってから気づいて、あわててメッセージを消そうとしたが何故かゴミ箱のボタンが押し難くて…‥……
結局消せないまま下書きに残り続け、ダンデへの好きが押さえられなくなるたびに思いを書き足したり、訂正したりしていた。
今日のバトルの後、俺様が差し出したタオルをふわふわでキバナの匂いがするな!と笑顔で言ったダンデが、かわいくてかわいくて愛おしくて……
指の動きがなかなか止められない。
本当は今すぐ好きだ!とダンデに叫びたいけど、キバナはロマンチストなので告白するなら確実にダンデの心を射止めた確信を得てから夜景の綺麗なレストランで忘れられないほどいかすプロポーズがしたいと思っていた。
まだ付き合うどころか告白すらしていないが、きっと大丈夫だろう。俺様だし…………
とそんなことを考えていた。
「そのためにはまず今度のチャリティー訪問、頼れるとこを見せないとな……そういえば、そろそろ書類くるはずだよな」
そういってキバナがメッセージフォルダを確認するとちょうどダンデからメッセージが入っていた。
メッセージには今から書類を届けにいくぜと書かれている。
「え、今から?」
メッセージの届いた時間を見てから、今の時間を確認する。
「…‥…………え、もう30分前じゃねえか!!!!」
ダンデはきっとリザードンに乗ってくる。それならもうついてしまう。
ヘアバンドもはずしているし、髪もおろしてしまっている。こんなだらしない姿ダンデには見せられない!
あわててソファーから起き上がったところで執務室の扉が叩かれリョウタと共にダンデが入ってくる。
「ダ、ダンデ!!!!」
「やぁ、キバナ午前中振りだな」
「あ、あぁ、そだな」
ダンデは髪をおろしたキバナの姿にひそかにときめいていたが、キバナはだらしない所を見られたと内心冷や汗がだらだらと溢れそうになっている。
ダンデは髪をおろしたキバナを直視できず、本当は色々話したくてせっかく来たのに封筒をキバナではなくリョウタな差し出し
「確認を頼んだぜ」
としか言えないまま足早に去っていった。
キバナがダンデを呼び止めようとしたがそれより早くダンデが執務室を出ていく。
残されたキバナとリョウタはとりあえず顔を見合わせる。
リョウタは書類を渡した後ハッとした顔になりダンデを追いかけて出ていった。
キバナはダンデに会えた嬉しさと、だらしないところを見られた気まずさで複雑な顔をしたまままたソファーに座る
「…‥………………とりあえず書類を確認しよ」
そういって封筒を見ると
「あれ?……これ書類か?」
書類にしては明らかに中身が分厚いし量が多い
封筒をひっくり返せば大量の封筒がバサバサと、落ちる。
「…‥……手紙?」
そしてそのうちの一つを手に取る
「ダンデからの手紙?俺様宛の?」
そういってキバナはその手紙の封筒を、丁寧にあけ中身を読みはじめた。
次の日ダンデは昨日キバナが髪をおろした姿を見てまたときめいたから、と徹夜でしたためたラブレターを持ってローズタワーの自分の執務室に来ていた。今まで書いた手紙を入れるための缶も持ってきたし、新しい手紙は今までの缶に、今まで書いた手紙は持ってきた缶にしまおう。そう思って封筒を手に取る。
「…‥……あれ?なんか薄い?」
あんなにたくさん封筒が入っていたのにこんなに薄いわけがない。
あわててなかみを確認すれば、キバナに昨日渡したはずの書類が入っている
「え…‥…………………………………………まさか」
まさか昨日キバナに会えるのが嬉しくて、手紙が入った封筒を気づかずに渡した?
ダンデの顔がさぁっと青くなる。
え、これは不味い…‥……非常に不味いとダンデは頭を抱える。
どうしよう、キバナ髪をおろした姿もかっこいいなんて考えてる場合じゃなかったやつじゃないか!
「ヤバい…‥……非常にヤバい、あれを見られたら死ねる」
あわてて執務室を飛び出そうとしたのに今日に限ってオリーブに見つかり首根っこを掴まれ執務室へ戻された。
「あぁ、詰んだ…‥……俺はもう終わりだ」
そういってダンデはしょぼしょぼとオリーブに渡された書類を持ち机へ戻る
「うぅ…‥……キバナ見ないでくれ」
そんなこと無理だとは分かってるけど…‥……
とりあえず仕事を早く終わらせよう。
とそんな事を想いながら書類へ目をやった。
ダンデが仕事を始めて数時間後、夜通しダンデからの手紙を読み続け隈を作ったキバナが
「今時手紙だなんてそんなの対策してない!!!!!!!!俺様もダンデが好き!!!!」
と古い日付の下書きの画面が表示されたスマホを持ってローズタワーのダンデの執務室へ飛び込んでくるのをダンデはまだ知らないのだった。