キバナと二人空を見上げる。
もうすでに時間は2時をまわり夜更かしというよりは徹夜といった方が良いそんな時間に二人はベッドに腰掛け寄り添いながら空を見上げていた。
「なぁ、キバナ」
「なぁにダンデ」
「ここ数日、いろんな事があったなぁ……」
「そうだな……ナックルシティが壊滅しかけたり、お前が死にかけたり……」
「チャンピオンじゃなくなったり……な」
ブラックナイトにローズ委員長の逮捕、死にかける程の大怪我に、10年間チャンピオンとして戦ってきて初めての敗北。チャンピオンじゃなくなってからも毎日のように復興のために走り回り、漸くこうやってキバナとゆっくり話せたのは1週間程ぶりだった。
「俺、負けるなら君に負けるって思ってたんだ」
「…………俺様も」
「負けちゃったんだな」
「そうだね」
「悔しいなぁ…‥…」
そう言ってダンデがうつむく。
キバナはなにも言わずにうつむくダンデを引き寄せる。
「キバナ……俺はチャンピオンじゃなくなってしまった…………君のライバルじゃいられなくなってしまった」
「何で?」
「だって君はチャンピオンの最強のライバルだから」
そんなダンデの言葉に小さく笑い
「バカだなぁダンデは」
とキバナが言う。
ダンデはキバナの言葉に顔を上げ少しムッとしながら口を開こうとしたが見上げたキバナの瞳があまりに優しくて言葉を失ってしまった。
「バカだなぁダンデ」
もう一度そう言ってキバナがダンデの髪を撫でる。
「俺様チャンピオンのライバルじゃなくて、ダンデのライバルだぜ?」
「俺の?」
「うん、チャンピオンだから勝ちたいじゃないんだよ、ダンデだから勝ちたいの」
「俺だから…‥……勝ちたい」
「そうだよ…………なぁダンデ、俺様これでもガラル最強のジムリーダーなんだよ」
「知ってるぜ」
「じゃあさ、俺様が他の地方ならチャンピオンになれているって言われてんのは?」
「…………知ってるぜ」
そう言ってダンデが甘えるように止まったキバナの手に頭を擦り付ける。
「なぁ、ダンデ…俺様、ただチャンピオンに勝ちたいなら他の地方にいってさくっとチャンピオンになってる。俺様の相棒だって、他の地方なら進化して今とは違う強さを手に入れてる。それでも俺様はガラルでしか出来ないダイマックスを選んだ。ここでの強さを望んだ。お前の前に立ち続けるために」
キバナの言葉にダンデの瞳に水の膜ができてゆらゆらと揺れる。
「10年間…10年間だぜ?そんだけ長い間お前に勝つことを望んだ俺様がお前がチャンピオンじゃなくなったくらいでお前を逃がすかよ。例えお前が違う地方に行ったって俺様はついていってお前とバトルをするよ」
「全く君は本当に最高のライバルだな」
「だろ?……なぁ、ダンデ、チャンピオンじゃなくなったお前はこれからなんにでもなれるし、なんだって出来るんだぜ」
「…なんにでもなれるし、なんだって出来る?」
「あぁ、そうだ。だって俺様達には未来しかないんだから」
「そうだな、本当に…」
瞳を細めて笑うダンデの頬に溢れた涙が伝う。
キバナはそれを優しくぬぐってやり額を合わせた。
「なぁ、ダンデ明日は何がしたい?何になりたい?」
ダンデはキバナの言葉に少し考えた後
「君とライバルになりたい。バトルしたい。」
「最高だな。」
「明日が楽しみだ」
そう言って二人は抱き締めあって笑いながらベッドに寝転がる。
ダンデはしばらくキバナの腕のなかで、あれがやりたい、これになりたいとキバナに聞かせていたがやがて小さく寝息をたて始めた。
キバナはそんなダンデが風邪を引かないように布団を被る。
すやすやと眠るダンデは安らかな表情をしていた。
「なぁ、ダンデお前はこれから何になって、何をなすんだろうな?」
きっとお前の事だからガラルの皆を強くする!何て言ってすごいもん作ったりしそうだし、新しいトーナメントとか開きそうだなぁ…‥…
願わくばそれを隣で、ダンデの瞳に写る景色の中にいられる程近くで見守れたらいいな…
そんなことを考えながらキバナも目を閉じたのだった。