「あっ、きみ」
仕事中、トイレを済ませて執務室に戻ろうというところで後ろから不意に呼ばれる。
振り返ると、そこには鶴丸さんの姿が。
「はい…」
鶴丸さんは隣の部署のSVだ。私の上司である大和守さんとSV同士ということもあってか、よく話しかけに来ては談笑しているのを見かける。
が、私は話したことがない。突然何の用だろうか。
「きみ、安定のとこの子だよな」
「はい」
認知されてる。少し驚き。
「ちょっといいかい?」
ちょいちょい、と手招きをしながら踵を返すので、その後ろ姿を見つめながらついていくことに…。
ふわふわの白い髪、男性なのにどう見ても私以上に細い腰。白い肌。
羨ましい…と思いながらやって来たのは、自販機が並ぶスペースだ。
「好きなもの買っていいぜ」
スマホを取り出す鶴丸さん…はて?
「?奢ってくれるんですか?」
「あぁ。奢る。」
「え…?」
突然過ぎて思考が追いつかず固まっている私を見て、鶴丸さんはふふっと笑う。
「いやぁ、きみ、安定のサポートを日々頑張っているだろう?あいつ、俺にはきみがいて助かったって言うくせに、本人には伝えてないみたいだからな…俺が代わりに、と思ってさ」
ちょ。大和守さん…!!?!!
嬉しいけど、鶴丸さんにそんな気を遣わせてるあたりほんとにもう…ってマスクの下で苦笑いしてしまう。
都度都度ありがとう、と言ってくれるからあまり気にしていなかったけど…まさか隣の部署に気にしてくれる人がいたなんて。
「あ、ありがとう御座います…!じゃあ…」
お言葉に甘えてカルピスウォーターのボタンを押す。
「ほう?」と鶴丸さんが呟いた気がしたが、タッチ決済の音に紛れてよく聞こえなかった。
「いつも安定を支えてくれて、ありがとな」
渡されたカルピスウォーターを受け取って鶴丸さんを見る。
瞳が金色なことに今初めて気付いた。凄い。
とても綺麗で見入ってしまう。
カラコン…?なのかな?
「ん…?どうした?」
私が何の反応もせずぼけーっとしてるからか、顔を覗き込むように屈んできて。
視界がその綺麗な顔だけになり、慌てて後ずさりする。
「ははっすまんすまん。可愛いな、きみ」
離れる鶴丸さんから一瞬いい匂いが漂う。
な…何が起きているのかわからなくなってくる…。
「先に戻るぜ。今度はなにかご馳走してやろうかなぁ」
独り言のように言いながらその場を去る鶴丸さん…
また奢ってくれる…??どんだけ????
いくら同じ会社の人間とはいえ、全然関わりないのに…なんで…?
深まるばかりの謎を抱えて、私も執務室に戻る。
何となくで選んだこのカルピスに意味があったとは知る由もなく———