ご飯を食べなくなった陸と大和の話「リク、調子どうだ?」
「あ!大和さん!大丈夫です!!」
入院中の陸の元に大和が見舞いに訪れた。お土産に三月が作ったゼリーを持ってきている。
「ミツが作ったゼリー、食べるか?」
「食べます!大和さんも食べましょう!」
「多めに作ってくれてるから一緒に食べようかな」
大和が2個ゼリーを出して用意をする。最近の陸は入院時と比べだいぶ痩せてしまっている。病衣から覗く手首は骨と皮しかないように見える。その腕からは治療のための点滴と栄養のための点滴が繋がっていて痛々しい。
「リク」
「なんですか?」
キョトンと大きな目で少し真剣なトーンで話す大和の方を見つめる。
「最近あんまり食べれてないって聞いたけど」
少し気まずそうに陸は視線を手元のゼリーに向ける。
「食べてますよ。今もこうやってゼリー食べてます」
「病院食の話。前までちゃんと食べていたのになんで最近食べなくなったんだ?」
大和の問いにかちゃかちゃと残り少なくなったゼリーをスプーンで混ぜる。しばらくするとゆっくり、小さな声で話し始めた。
「おいしくないんです。楽しくもないんです。一人で食べようと思えないんです」
寮では一人で食事をすることはほとんどなく誰かしら一緒に食事をしている。あの食事の場は賑やかでいつも楽しい。酷い発作を起こした陸は状態が落ち着かず、未だ常時酸素を必要としているため、長期の入院となってしまっている。
「オレ、帰りたいです」
俯きながら話す陸の弱い気持ちが混ざった言葉に驚く。これまで明るく「早く帰れないかなぁ」って話す姿しか見たことがなかった。今回の長期入院は本人の精神的にもだいぶきてそうだった。
「そうだなぁ。・・・お兄さん明日仕事休みだから泊まろうかな」
ぽんと大和が陸の頭に触れる。その言葉に驚き、俯いていた顔を上げ、目が合う。そして陸の普段から大きな目がさらに大きくなる。
「リクと久しぶりに一緒に過ごしたいんだけど、どう?」
「でも、それは大和さんにご迷惑かけてしまう・・・」
「リクは?お兄さんと過ごすの嫌?」
「嫌じゃないです!嬉しいです!」
「じゃあ今日この部屋にお泊まりさせてもらおうかな」
大和は付き添いの為に手続きに向かい、書類に記入し終える。廊下には配膳車が停まっており、そろそろ夕食の時間であることに気づく。せっかくなら陸と同じタイミングで食事をしようと売店に自身の夕食を買いに行った。夕食を選びながら寮にまだ連絡していなかったことを思い出す。三月に陸の所に泊まるから今日の夕食は不要である連絡をしておいた。
陸の部屋に戻ると食事が配膳されていた。全く手をつけておらず、食事を無視して本を読んでいる。
「ただいま。リク、一緒に夕食食べよう」
「おかえりなさい!」
陸が笑顔で迎える。ここどうぞと配膳された食事を少し移動させ、大和のスペースを作る。
「ありがとう、じゃあ食べようか」
「はい!」
笑顔で話す陸。大和は買ってきたお弁当を食べながらちらりと陸の様子を伺う。箸を手に持ち、自分と同じタイミングで抵抗なく食事を始める様子に安心する。
「大和さん!これ美味しいですよ。どうぞ!」
「それはリクの分。お兄さんの分はここにあるから」
明らかにしゅんとする陸。さすがうちのセンター。訴求力が凄まじい。病院食として配膳されたものは陸の体調に合わせ、栄養を考えられたもの。陸に言われるがまま食べてしまうのは良くないことを理解いるからこそ陸の好意を断る。
二人で話しながら食事を進める。陸は半分ほど食べた時点で手が止まった。
「お腹いっぱい?」
「うーん、はい。なんか、お腹いっぱいで」
「最近食べれてなかったんだからこれだけ食べれたら十分だと思うよ。頑張ったな」
ぽんぽんと大和が陸の頭を撫でると嬉しそうにする。下膳のために訪室した看護師も陸がちゃんと食事をとれたことを褒めていた。
♢
就寝時間となり、病院全体の電気が落とされる。大和は普段なら今から晩酌したり、台本を読み込んだりとまだまだ起きている時間だが、ここでは規則正しい生活に従う。陸のベッドの隣に簡易ベッドを用意し、並んで布団に入る。
「あの、大和さん」
「ん?」
控えめに、申し訳なさそうに陸が話しかける。
「多分、オレ夜うるさくしちゃうと思うんです」
陸との生活が長くなり、うるさくするの意味をすぐに理解する。寮でも調子を崩し、夜間、発作を起こした時には、「うるさくしてごめんなさい」と、こうやって入院になった時も「迷惑をかけてごめんなさい」と申し訳なさそうに話す。自分にとっても他のメンバーにとっても陸の持病は陸が悪いのではないこと、それをうるさい、迷惑だと思ったことなど一度もない。
「うるさいと思ったことなんか一度もないよ。リクが助けを求めてくれた時、いつも嬉しい。俺だけじゃなくみんなそう思ってるよ」