お互いがお互いの灯台だから大丈夫な感じの月鯉「一滴も飲めません。全てお断り致します」
よく通る鯉登の声が執務室に響く。対峙する上官の背にある窓の外には長閑な陽光が煌めき、小鳥の囀りさえ聞こえる穏やかさであるというのに、鯉登の凛としたその答えに月島は雷に打たれたような衝撃を覚えて硬直してしまった。
しん、と静まり返った部屋、隣にはいつものように胸を張るが如くの姿勢で堂々と立つ鯉登、そして自分たちの前に座るのは、本来であればこのように押しかけての面会など叶うはずもない遥か雲の上の──、
「……決して悪い話ではないと思うがね」
「いいえ。閣下は私の話を聞いておられなかったのでしょうか」
躊躇いもなく続けた鯉登を、月島は思わずぎょっと見上げる。それでも咄嗟に咎める声が出なかったのは、月島も心の中では鯉登に、そうであって欲しいと強く思いながら本日、彼に同行してここを訪れていたからだ。
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