真冬に見た、夢であってほしい「おや、これはなんでしょうか」
久しぶりに天城とオフが重なり、自宅へ帰ってきた。見慣れたフローリングのリビングに、知らないこたつ。合鍵を渡している天城の仕業かとも考えたが、ああ見えて気を使う性格なので無断でこんなことはしないでしょう。吹雪の中を歩いてきたので試しにスイッチを入れてみた。コーヒーを入れてひといきつくと急に眠気が襲う。
このまま眠っては天城になんといわれるかわかりません、ですが、この誘惑は抗いがたいものなのです。
「たっだいまー燐音君の登場ー、ってあれメルメルーHiMERUー」
うるさいなぁ、俺はここにいます。って、なんだが目線が低いような、おかしいですね。
「なんだいないのかー服も脱ぎっぱなしってどういうことだ」
そんなことはしないのです。いつもきちんと洗濯機に入れています。
「ってかなんでパンツも一緒になってんだぁ」
しばらく部屋中探索する音が続いていた。
「あれ、なんだこれ、猫か」
そういった天城と目が合う。猫、どういうことですか。俺は人間なのです、決して猫などでは。じたばたと動かした手が毛におおわれている。
みゃうみゃう
「おー元気だな。暴れんなって」
みゃぁみゃぁ
何を言っても猫の鳴き声で、四肢はよく見ると猫それで。混乱していると頭の中に声が響く。
『ふふっ、あのこたつで眠ってしまいましたね。あれには呪いがかかっているのです』
はっ、え、呪いって、おいっ。
見れば目の前の天城もフリーズしていた。
「呪いってことは、これがHiMERUってことか、こたつで寝るとか案外かわいいところあるんだな」
あごの下をなでられれば気持ちよさにグルグルと喉が鳴る。膝の上に乗せられればその温かさと柔らかさに、またうとうとしてしまう。いけない、こんなだらしないのは俺ではないのです。とはいえ、これは、もう。
すると、服のポケットからスマートフォンが鳴り始めた。仕事関係を表す音に慌ててしまうと、
「もしもーし、ああ、弟君のとこの、HiMERUは今買い物に出かけててさ、うっかりだよなー、え、撮影の打ち合わせをしたいって」
その後も続く会話、時折上がる笑い声になんだかもやもやしてしまう。とはいえ、この姿では何もできない。
「はいはーい、んじゃそうつたえとくわ。じゃね」
やっと切れた、と思えば手(前足)をトントンとされ、
「痛てぇよ」
見れば腕のところに爪を立ててしまっていたらしく、うっすらと血がにじんでいる。
ぺろぺろ、ざりざり。
「くすぐった、わざとじゃないのはわかってんよ」
ごそごそとバッグから取り出したのは、猫まっしぐらのフード。
「遊び部で猫カフェ行ってさ、これ余りだけど食えるのか」
ぺりっと封が開き、ふわっと濃厚な魚の匂いに空腹を自覚した。そういえば晩御飯まだでしたね、今日はカロリーオーバーなのでサラダとサプリだけのつもりだったのですが。
「おー食った。うまいかーそれ、ちゃんと食べろよ」
小さなお皿に全部移して。浴室へと消えた。
お腹も満たされて、今度こそ本格的に眠る体勢。とてとてとベッドへ向かう。でも、
『高いですね』
そう、ベッドの上がはるか先で乗れる気がせず、よじ登るにもシーツに傷がつくのが嫌でもだもだしていしてしまう。
「おっ、寝るのか」
ひょいっと抱き上げられて、布団の上に乗せられた。天城の腕に乗せられて、いつもよりよくきく鼻で慣れたボディーソープと濃い天城の匂いを感じる。
「早く元に戻ってくれよな、明日には魔法使いくん達に相談してみるかな」
おやすみなさい。
次の日の朝、いつもより涼しい感触に目が覚めて、天城と目が合った。あ、戻っているよかったです。