【新刊サンプル】眠れる夜はきみのせい【千奏】 ヒーローとは、結局何なのだろう。広い空を見上げながら、千秋はひとり自問自答をしていた。
空は千秋の憂鬱な気分とは裏腹に、高く青く澄み渡っている。立ち止まった千秋には見向きもせずに通り過ぎる生徒たちの歩様も、弾みだしそうなほど生き生きとしていた。
五奇人が討伐され、生徒会が治めるようになった夢ノ咲学院。たむろしていた不良生徒たちは一掃され、残された生徒たちは新たな環境で活動ができることに心踊らせていた。生徒会が掲げるのは、すべての生徒が確かなカリキュラムを受けアイドルとして羽ばたくこと。まさに文明開化のような新しい時代の訪れ。
しかし。千秋は未だ旧時代に取り残されている。千秋以外の流星隊のメンバーは学院自体を辞めてしまったものが大半で、ユニットは事実上の解散状態。千秋自身も満足なアイドル活動ができずに、ただ飼い殺されているような気分で過ごしていた。
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