Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    うづきめんご

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 8

    うづきめんご

    ☆quiet follow

    7/13ちじょうのあいのかなえかた
    え47b 不定休営業
    で頒布します新刊です!
    A5/28P/400円(会場価格)
    表紙オンデ、本文コピーです
    宜しくお願いします!

    #千奏
    Morisawa Chiaki×Shinkai Kanata
    #ちじょうのあいのかなえかた

    【新刊サンプル】眠れる夜はきみのせい【千奏】 ヒーローとは、結局何なのだろう。広い空を見上げながら、千秋はひとり自問自答をしていた。
     空は千秋の憂鬱な気分とは裏腹に、高く青く澄み渡っている。立ち止まった千秋には見向きもせずに通り過ぎる生徒たちの歩様も、弾みだしそうなほど生き生きとしていた。
     五奇人が討伐され、生徒会が治めるようになった夢ノ咲学院。たむろしていた不良生徒たちは一掃され、残された生徒たちは新たな環境で活動ができることに心踊らせていた。生徒会が掲げるのは、すべての生徒が確かなカリキュラムを受けアイドルとして羽ばたくこと。まさに文明開化のような新しい時代の訪れ。
     しかし。千秋は未だ旧時代に取り残されている。千秋以外の流星隊のメンバーは学院自体を辞めてしまったものが大半で、ユニットは事実上の解散状態。千秋自身も満足なアイドル活動ができずに、ただ飼い殺されているような気分で過ごしていた。
    「流星隊は、解散しようと思う」
     そんな折、現ユニットリーダーである隊長からそんな提案が出たのは当然のことだったように思う。だって、真のヒーローは流星隊の中には居なかったのだ。生徒会こそ夢ノ咲の救世主。天祥院英智こそが、夢ノ咲の光。この学院の生徒たちは、仮初めのヒーローを必要とするほど浮世離れはしていない。
    「――」
     激動の時代の中、千秋は何もできなかった。ただ流れに揉まれ混乱していただけだった。流星隊という肩書きを維持するだけの力も気力も、もう持ち合わせてはいない。千秋の道は、完全に途絶えてしまっている。
     そんな折、懇意にしていた後輩であるスバルがユニットを結成したという一報が飛び込んできた。そうか、新たに作ってもいいのか。と、その可能性を全く考えていなかった己に千秋は気が付いた。きっとあの暗闇の中で藻掻いていたスバルは、支え合い一緒に前を向いて歩ける誰かを見つけたのだ。千秋には手に入れることができなかった、誰かを。
    「そういえば……」
     だがそんな千秋にも、ふと脳裏によぎった存在がいる。深海奏汰。あの真夏のプールで出会った、現世離れした不思議な子だ。
    「深海くんは、どうなったのだろう」
     風の噂で、紅月に踏みつぶされるように倒されて表舞台からは去った、と聞いた。その後、彼はどうなってしまったのだろうか。
     あんなにも、千秋のことを眩しく見てくれていたのに。



     千秋を覚醒させたのは、アラームとして設定している、幼少期に憧れた戦隊ヒーローのテーマソングだった。枕元に置いたスマートフォンのアラームを止めて、上体を起こし大きく伸びをする。
     なぜだろう。寝起きは決して良いとは言い難い体質なはずなのに、妙に頭がすっきりしている。とんでもなく爽やかな朝だ。最近、とっても寝つきがいいし。
    「あ、守沢先輩おはようございます」
     同じ部屋で生活している後輩たちは、千秋より先に起床して一日の生活を始めていた。真は既にリビングでパソコンを開いて作業をしているようだったし、アドニスもソファーに座って台本に何やら書き込みをしていた。異国の香りを纏う彼のそれが難しい漢字にルビを振っていることだとわかると、千秋は支度の傍らいくつか彼に助言をしてやる。
    「あれ、今日はミーティングって言ってませんでしたっけ」
     破綻は『はたん』と読むんだぞ、とアドニス教えながら千秋が腕を通しているのがトレーニングウェアだと気が付いた真が、「あれ」と声をかけてきた。多忙でスケジュールが不定期な千秋は、後輩たちに余計な心配と迷惑をかけまいと自分の予定を粗方共有している。それを記憶していたのだろう、真が千秋の様子を見て声をかけてきた。
    「ああ。そうなんだが、時間があるしミーティング前に走ってこようと思ってな」
     今日の千秋は、すこぶる調子がいい。まるで羽が生えたように体が軽く、運動をせずにはいられなかった。
    「気を付けて行ってきてくださいね」
     やたらテンションの高そうな千秋に、真もアドニスも首を傾げる。だが千秋のテンションが一般的な人より高いのはいつものことなので、二人ともにこやかに先輩の背中を見送った。



     ESあげての一大プロジェクトだった、メガスフィアは去った。企画中は紆余曲折あったものの、次の活動に向けて進まなければいけない。各ユニットが先を見据えて新たなる一歩を踏み始めた頃、流星隊にはライブの計画が持ち上がった。
    「ある程度メンバー間の意見を擦り合わせて、上に掛け合いたい」
     千秋はユニットメンバーの顔をひとりひとり見つめながら、そう切り出した。五人のスケジュールが合致することは決して多くないので、ESビルの会議室をがっつり半日抑えて流星隊だけで話し合いをしようと提案したのは千秋だ。流星隊はリーダーを適宜入れ替えつつ活動をするユニットだが、スタプロと綿密な連携が必要な部分についてイニシアティブを取るのは相変わらず千秋であることが多い。今回もまず主導していくのは千秋。学院時代は多少大雑把で通った企画も、いち企業であるESを納得させるためにはそれよりクオリティーの高いものを出さなければいけない。もちろん、P期間の手直しも入るが。
    「おまえたちは、何がやりたい?」
     確固たる企画を遂行するためには、まずメンバー間である程度骨組みを固めたかった。千秋はテーブルについている四人の顔を一人一人確認しながら、問う。
    「流星隊での単独ライブは何度も経験があるが、在学中は俺が言う戦隊モチーフをベースに型にはまったようなものばかりだった。近頃はESが音頭を取る、ユニット単位というよりももっと大きい流れでやろうというものが多かった。ここで一度ガツンと、俺たち個々の特色が出るようなライブをしたい」
     視界の端で、後輩たちが力強く頷いたのがわかった。
     だが。何人集まれば文殊の知恵とも言うが、なかなかいいアイディアというものは産まれない。時間とともにホワイトボードへの書き込みだけが増えていく。うーん、と翠が唸った。
    「やっぱり、俺はあえてここでヒーローショーをやりたいです。その……成長した今の俺たちのヒーロー像を見て欲しいというか」
     忍も頷く。
    「確かに。遊園地でスーパーノヴァのライブをやった時には、拙者たちは倒される悪役。脇役のような状態だったでござる。ヒーローとしてリベンジできるならしたいでござるな」
     流星隊が今の五人になってから初めて行った、遊園地でのショースタイルのライブ。あの時、後輩たちはまだ一年生。実績がなくまだアイドルとしても粗削りだったため、メインで動くのは千秋と奏汰の二人だけにしたのだった。
     しかしあれももう一年以上前。千秋たちの背中を追いかけてついてくるだけだった後輩たちも、持ち回りのリーダーを勤めあげるほど立派に成長をしている。五人全員がヒーローで、大がかりなショースタイルのライブをやってもいいだろう。
    「聞いたか?奏汰。俺たちのこどもたちは、こんなにも逞しく成長してくれて……!」
     わあっ! と大げさに泣くような仕草をしながら言う千秋の肩に、奏汰がそっと手を置いた。
    「そうですね。とてもほこらしいことです」
     にっこりと笑って見つめあう様は、まるで苦楽をともに長い年月を過ごしてきた夫婦のよう。流星隊を知らない人たちが見たら二度見しそうなほど二人の物理的な距離は近いが、後輩たちはそんな彼らを見慣れているので「ああ、また始まった」と何事もないように打ち合わせに戻っていく。
    「あの、いいッスか」
     おずおずと鉄虎が口を開いたのは、甘えるようにすり寄ってきた千秋の頭を奏汰がい~こい~こと撫で始めた時だった。
    「どうした南雲」
    「ええと、」
     鉄虎は少し躊躇う素振りを見せる。しかし横に座っている忍の顔を、正面に座る千秋の顔を確認してから意を決したように言った。
    「俺、全国ツアーがしたいッス」
    「おおお!」
     全国ツアー。全国各地を巡業するライブ公園のこと。
     やりたい。というのは簡単だが会場の規模や選定、移動日のスケジューリングとスタッフ人員の手配。やることは山積みだ。まあ、そのあたりのことは英智と詰めれば問題ないだろう。
    「散らばって行った流星隊Nの仲間たちに、今の俺たちの姿を見せたいんスよね」
     時代の流れの中で産声を上げ、そして散った流星隊N。流星隊が流星隊として再始動した頃にメンバーたちは別々の方向へ進んだが、中には鉄虎の元を離れたあとも彼のことを強く慕い、目標にしてそれぞれの道で活動をしている子たちもいる。そういうかつての後輩たちに、今の自分たちの姿を見せたい。
    「もちろん、そんなの俺のエゴかもしれないッスけど」
    「――」
     寂しそうに鉄虎は笑った。奏汰は手を伸ばして、そんな鉄虎の頭を撫でてやる。獣の毛のようにあちらこちらを向いている毛先が、ふわふわと揺れた。
    「たくましくなりましたね、てとら」
     真っ直ぐ奏汰に褒められはにかんだ鉄虎のことを、翠と忍も優しく見守っていた。


     天祥院英智が、姿を現した。
     途端に、SSの会場からはどよめきの声が漏れる。事前に彼が出演するであろうことは噂されていたものの、やはり生徒会長であり天祥院財閥の御曹司でもある英智の放つオーラは凄まじい。その神々しさに、人々は感嘆のため息を漏らしていた。
     圧倒的すぎる。千秋は瞬時に、fineと自分たちの実力の差を悟った。一瞬にして表情を苦虫を嚙み潰したようなものに変化させた千秋を見て、英智は強者の余裕で微笑んだ。
    「おや、深海くんは? ――ふふ。来れなかったようだね?」
     メンバーを庇うように前に出た千秋の背後にいる後輩たちを見やり、その中に奏汰の姿がないことを確認した様子。
    「――」
     そう。スバルたちの助っ人として動くためには、この場に奏汰の存在は必要不可欠だった。流星隊フルメンバーで挑んで、もともとHPの少ない英智の体力を削る消耗戦に持ち込みこの後に当たるユニットの負担を少なくする作戦。なのに千秋は奏汰を呼ぶことができなかった。
    「あれ、」
     そういえば、なんで奏汰を呼べなかったのだろうか。あの子はきっと、千秋が呼べば着いてきてくれると確信が持てるくらい、一蓮托生なのに。
     胸が苦しい。隣に奏汰がいない。足が竦んで動けない。
     千秋は、暗闇に放り込まれたような感覚に襲われた。本当に突然夜になったかのように、目の前が真っ暗になってしまう。
     どうして、自分は。
     重いものを一緒に持ってくれ。と、奏汰に切り出すことができなかったのだろう。
    『そうですよ、ちあき。ぼくは『だいじょうぶ』ですから』


     次のミーティングの機会は、存外早く訪れた。あまりにもとんとん拍子に企画の承認が進むものだから、千秋のほうが焦って早急に招集をかけたくらいだ。
    「え~、全国ツアーを行う許しが出た」
     急遽抑えた手狭な会議室。膝が突き合うほどの近距離で顔を合わせた五人は、千秋の言葉に活気づいた。
    「なので、やりたいことをもう少し具体的に詰めていきたい! 企画書にまとめるぞ! 時期も規模も場所もまだ不明だ!」
     よくそれでひとまずのGOサインが出るものだと思うが、ESは英智が頂点に君臨し様々な決定権を持っているからか、アイドルたちは比較的自由が利く。
    「とりあえず、先にスケジュールや会場の関係があるから日程からですかね……?」
    「ふっふっふ」
     なんとその点についても、ESではあまり悩む必要がない。千秋は、机の上に予め持ち込んでいた資料を並べた。そこに記載されているのは、全国数多のライブ会場と空き日付が記載されたリスト。千秋以外の四人は、ぱちぱちと瞬きをしながら紙面を覗き込んだ。
    「天祥院が予め抑えている会場のリストだ! この中で、という制限はかかってしまうが、好きな日の好きな会場を選んで全国ツアーを作ればいい」
     実は、アイドルたちのため英智によって全国の小規模ライブ会場は、いくつか予め抑えられている。自身の在学中を鑑みても、夢ノ咲出身のアイドルというのはそこかしこで突発的にステージを作り上げがちだ。それらに柔軟に対応するための対策として始めたらしい。そもそも、天祥院と朱桜が地方に所有している物件だけでも、合わせるとそこそこの数になる。
     選択肢がありすぎて、なんだかパズルのようだ。そんなことを思って奏汰は笑みを溢す。しかしふと、何やら考え込んでいるような所作をしている忍に気がついた。
    「しのぶ、なにかありますか?」
     奏汰が柔らかく問う。すると、忍ははっと顔を上げておずおずと語りだした。
    「あの。誕生日から始まって誕生日で終わるツアー、はどうでござるか……?」
     誕生日から誕生日。そこに誰の、という主語はなかったが他の四人とも忍の言いたいことは察していた。
     流星隊は五人という大所帯ながら、誕生日は三ヶ月半あまりの間に凝縮している。六月九日の忍から始まって、九月十八日の千秋まで。
    「なるほど……。ツアーとしては少し長丁場な日程にはなるが、特別感がありいいとは思うな」
     各人の誕生日をライブ日とすると、移動日も十分に確保できる。首都圏や主要都市だけに限らず、そこそこの遠方にも足を伸ばせるはずである。
    「あらためて問おう。どこへ行きたい?」
     そう問いかけながら千秋が身を乗り出すと、こつんと膝同士がぶつかった。各々、思いを馳せる。もう一度行きたいところに行くのもいいし、こんな機会ではないと行けない土地に行くのもいい。
    「そうですね……」
     奏汰の脳裏にぱっと思いついたのは、夢ノ咲の海岸、その地下に広がる世界、そして星島。思えば、深海の家で変わらない『おつとめ』の日々を過ごしていた頃と比べれば、はるかに色んな地を知るようになったものだ。
    「なやんでしまいますね」
     悩めることはなんて贅沢なのだろう。
     にっこりと微笑んだ奏汰のそんな胸中は知らず、四人は同意するように頷いたのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works