翔藍 ねえ、どうすればいい? と藍はペールブルーの瞳を揺らしながら翔に訴えた。
どうすればって、楽しかったんだろ。楽しかったならそれでいいんじゃねえの。と翔が言うと、藍は迷子のように眉尻を下げた。メモリーの中にさ、ショウ以外の人もいっぱい増えていってしまうんだ。と困惑しながら。
惑う藍はまだその眼で世界を知るようになってから日が浅い。だから同じグループのメンバーとツアーの先々を訪れて、いろんなものを見ていろんな人との思い出が増えていくのは、彼にとっては大変喜ばしいことだと思う。きっと那月が藍の言葉を聞いたら、飛び付いて幼子を愛でるように抱きしめただろう。
藍が泣きそうなのは、翔が藍のことを抱きしめてあげることができないのは、彼らが結ばれてこれまた日の浅い『恋人同士』であることに由来する。コイビト、というものを藍がどう捉えているのかはいまいち伝わってこないところもあるが、少なくとも藍のその膨大なはずのメモリーを翔で埋めたいという願望を持っていることだけは今の台詞だけで伝わってきた。
喜ばしいことではないか。
「ショウは、コイビトとして嫌じゃないの」
少し拗ねたように、藍は口を尖らせる。
「嫌だよ」
間髪入れずに翔がそう答えると、藍は少し驚いたような顔をした。
「でも、藍のことが好きだもん」
翔だって、男だ。美しい恋人を自分だけのものにして閉じ込めておきたい願望なんていくらでもある。だけれど恋人が輝くのが自分の隣だけではないこともまた、痛いくらいに知っている。蝶が羽ばたく翅を奪ってまで束縛しておきたいと思うほど、来栖翔という男は器量の狭い男ではない。
「それに、こうやって藍の一番近くにいるのは俺だし」
ほんの少しだけ背伸びをして、流れた涙の筋を拭うように白い頬に口づけた。何を調合すればこうなるのだろうと考えてしまうくらい、藍の涙からするのは優しい味。
「――!」
白皙の美貌が一気に赤く染まった。翔の唇が触れた箇所を指でおそるおそるなぞって確かめている。その反応があまりにも幼く可愛らしいもので「ふはは」と翔の口から笑い声が漏れた。
そうやって、翔と藍は少しずつ深く広くなっていけばいい。