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    r_elsl

    @r_elsl

    全て謎時空

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    ワンライに投稿させて頂きました。お題はミモザ。

    自覚するには程遠い 買った生花を贈り合いして部屋に飾りませんか、とスレッタから提案したのはいつだっただろうか。以来2週間に一度、スレッタとエランはお互いが選んだ1〜2本の生花を交換して飾っている。
     枕元の花が視界に入れば、花自体の美しさはもちろん、彼のことが脳裏を過ぎって多幸感に包まれる。エランとはミオリネや地球寮と同じ大切な関係だけれど、どこか少し違う。
     以前招き入れられた彼の部屋には最低限の物しか置かれていない空間に一つ、スレッタの贈った花を活けた花瓶が部屋に彩りを与えていた。まるでエランの心境を表しているようだと、嬉しさと同時に少しだけ優越感を覚えたのは秘密だ。他には感じないこの気持ちを、スレッタは言語化出来ていない。
     1週間が経ち、生花が少しずつ萎れてきた頃交換の日がやってくる。放課後、屋外のベンチでお互いが持ち寄った花を見て思わず固まってしまった。
    「あ、あの……」
    「同じ、だね」
     どちらの手にも添えられた、黄色くて丸い小さな花をたくさん付けている花束。ミモザと呼ばれる可愛らしい花は、花屋の店頭に置かれるような季節の花であった。
    「君に合うと思って。被っちゃったね」
    「ありがとうございます! 気にしないでください。エランさんからのはまた違った嬉しさがあるので!」
    「良かった」
     差し出された花束を受け取って、空いた手に自分のものを載せる。エランにあげたものは青いリボンでラッピングしてもらったが、こちらはピンクのリボンだ。ミモザの可愛さがより際立って笑みが溢れてしまう。
     そういえば自分のイメージカラーはピンクなんだろうか、と考えると一気に顔が熱くなってきた。取り繕うように大きな声を上げる。
    「は、はは花言葉も好きなんです! 調べました?」
    「忘れてた。何ていうの?」
    エランはミモザから視線を上げると、小さく首を傾げる。緑の瞳が瞬いた。
    「感謝や友情です」
    「ぴったりだね」
    「はい! もう一つあるんですけど、それは──」
     ──秘密の恋。
     言いかけて、口から出ようとした言葉に思考停止した。黄色いミモザだけが持つ花言葉。それを伝えて、エランはどう思うのだろう。
     彼とはそんな関係じゃないから問題ないと思っても、どうして頭から離れないんだろう。心臓が破裂しそうな程ドキドキしている。不思議そうにじっと見つめてくるエランの顔を見ていると、益々体温が上がっていくのを感じた。
     あまりの熱さに訳が分からなくなって、勢い良く立ち上がる。
    「あ、ああああの! 用事を思い出したので本日はこれで失礼します!」
    「そう。長く話して悪かったね」
    「いえいえ!! では、あの、ありがとうございました!!」
     花束を落ちないよう、でも傷つけないように握って地球寮に向かって勢い良く駆け出す。どんなにスピードを出しても、頭の中はエランと花言葉で飽和しそうだった。

    ◇◇◇◇

     座ったまま小さくなっていくスレッタを見届けると、エランは手元のミモザを凝視する。
     実は花言葉は事前に調べて知っていた。感謝も友情も、秘密の愛も。意地悪かもしれなかったが、スレッタがどう反応するか知りたかった。
     決闘以来、彼女のことが頭から離れなくなった。この強い興味が果たして恋愛なのかどうか。スレッタの反応を見れば何か分かるかと思って試しに花言葉を知らないふりをしたが、慌てふためく彼女の姿がまぶたの裏に焼き付いただけだった。
     恋愛でも親愛でも彼にとってはどちらでも良かったが、どうせなら彼女が喜ぶほうでありますようにと黄色い花を指で転がした。

    <了>
    20230306
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