ケレス家の長男は悩みを抱えていた。
特に強調しておきたいのは、最近の「休日の昼」の悩みについてだ。
部屋中のむせ返るようなカカオ豆の香り。「食べて」という言葉と共に拒否を許さない次男の圧と差し出されるトレー。そこに載せられたいくつものチョコレート。唯一の救いは、前日の次男の動きを見ていれば次の日に来るだろうと心構えが出来るぐらいか。
休日の起床時間が遅い長男にとって、それは毎度寝起きに直面する事態でもあった。
「カカオくせぇ……」
鼻が曲がりそうになるのを堪えて食卓につく。うんざりした表情を隠さないまま、緩慢な動きで一つつまんだ。
最初は全くチョコレートだとは思えない程毒々しくて歪な形をしていたが、段々と整えられてハート型やうさぎ型などファンシーなデザインを作り出すようになった。味も趣向を凝らし始め、ナッツ、オレンジピール、いちご等一口ごとに舌を楽しませる有様だ。初めて作ってから数週間とは思えない程レベルアップしている。それはいいのだが──。
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