膝の上の話 唐突だが、リンクを照れさせたい。それも長時間。
ゼルダはじっと、リンクが日課にしている鍛練を地面に座って見ながらそう思った。
前の呼び捨て騒動で自分だけ赤面祭りだったのだ。その後リンクは弱点について話してくれたのだが、少ししか赤面していないし、正面から見ていない。
むぅ、とゼルダは頬を膨らませた。だけど、肝心の方法がわからない。
ゼルダはリンクを照れさせる方法をあれこれ考えた。だから、防御体制がとれなかった。
「ゼルダ」
不意打ちで呼び捨てで呼ばれてゼルダの肩は大きく跳ねた。頬が熱くなる。いつもは身構えているのであまり熱くはならなくなったのに。
「あ、顔が赤くなった。最近呼び捨てで呼んでもなかなか赤くならなかったから、寂しかったんだよね。まだ耐性ついてなくて嬉しい」
リンクは汗を拭き取りながら、ゼルダの横に座った。ゼルダは恥ずかしくて顔を伏せた。
「ねえ、ゼルダ、顔を見せてよ」
「む、無理です!」
「なんで?」
「は、恥ずかしいからです!」
「俺、ゼルダのその顔が好きなんだけど」
「そ、それでも無理です!」
ふーん、とリンクはしばらく無言で隣にいた。ゼルダは顔を伏せたまま息を吐いた。少しずつ頬が冷めていく。
顔がいつも通りの温度になり、ゼルダはそろそろ顔を上げようかとした時だった。リンクが耳に口を近づけてきた。
「ゼルダ」
息が耳に当たるぐらいの至近距離でそう囁かれた。ゼルダの顔が一気に発火する。
「リ、リンク」
「やっぱり不意打ちは駄目なんだ。ゼルダの弱点もう一個見つけちゃった」
リンクの吐息が耳に当たり続けて、ゼルダは身体を震わすことしかできない。
「あ、あの」
「いつもは赤面しなくなったのって、もしかして俺からの呼び捨てに反応しないよう身構えていたの?」
「ち、ちが……」
「どうなの、ゼルダ? 答えてくれないとずっとこのままだよ」
至近距離で呼び捨てで呼ばれるという、ゼルダにとっては拷問みたいなことだ。一刻もこの状況から逃れたくて、ゼルダは声を上げた。
「そう、です……顔が赤くなっているのを見られたくなくて……」
「へえ、じゃあ、ゼルダは俺からの呼び捨てを期待していたんだ」
「……!? ち、違います! なんでそうなって……」
「なんでって、常に俺からの呼び捨てについて考えていたんでしょ。それって期待しているのと同じじゃん。嬉しい」
そう言って、ようやくリンクが離れた。ゼルダは無意識に力を入れていた身体を緩めた。だが、まだ顔は伏せたまま。
「ゼルダ、そろそろ顔を見せてよ」
「まだ顔は熱いです! できません!」
「……じゃあ、これはどう?」
すると、突然ゼルダの身体が持ち上がった。
「きゃっ! ……リ、リンク!?」
気づくと、ゼルダはリンクの膝の上に座っていた。リンクはゼルダのお腹に腕を回して逃げられないようにする。
背中からリンクの体温を感じて、さっきよりゼルダは混乱した。
「これなら互いに傍にいるって感じられるね。ゼルダも顔を伏せなくていいし」
「そ、そういう問題じゃなくて……!」
「それと」
リンクは再びゼルダの耳元で囁いた。
「呼び捨ての訓練をしようか」
「え、あの、待って……」
「ゼルダ」
その瞬間、ゼルダは足の先から頭のてっぺんまでゆで上がった。
「あ、あ、……」
「ゼルダ可愛い……もっと呼びたくなる……ゼルダ」
「あ、む、むりだって、こんな、はずかしい……」
「なんで恥ずかしいの?」
混乱しきって何も考えられないゼルダは、その質問に対して素直に答えてしまった。
「だってぇ……みみもとで、よびすてでぇ……ひざにのせられているし……リンクのたいおんを、ずっとかんじられるし……」
「俺もゼルダの体温を感じられて嬉しいよ。あと、名前呼ぶ時、心の臓の音が早くなるね……ゼルダ」
「うそぉ……なんで……」
「ゼルダ……本当に可愛い……ずっとこうしていたい……」
リンクはゼルダのうなじに頬を当てた。ゼルダはそれだけで身体を大げさに跳ね上げた。
「もうやめてぇ……しんじゃうって、たすけてぇ……」
「今日は一回呼んで赤面しないようになるまで頑張ろうか」
「いっかい……? それなら、すぐにおわりま……」
「ゼルダ」
「あっ……」
「あれ、耳の先が真っ赤なままだ。これは長期戦になるな」
「え、あ、あ……」
「ゼルダ」
結局、ゼルダは日が沈むまでリンクの膝の上に座っていたのであった。