この暗がりのなかで いつから、そして何がきっかけで髪を伸ばし始めたのかはもう忘れてしまった。ただ、父様と同じ髪型にしたときは、何となく誇らしく感じたことを覚えている。「三つ編みなんて女みたいだ」と憎まれ口を叩いてきたトーマスが、「じゃあトーマスは私のことを母さんと呼ぶんだね」と父様にからかわれて、反論できず半泣きになったことも(あの子は昔から父様が大好きだったから)
研究所で働いていたときは、もはや願掛けのようなものだった。
この髪があのときの父様よりも長くなったら、父様は帰ってくる。背中まで伸びたら父様は帰ってくる。腰まで伸びたら父様は帰ってくる。膝まで伸びたら―
行方不明の科学者について何の情報もよこさないDゲイザーを握りしめながら、毎朝鏡の前で髪の長さを確認した。
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