未完ドムサブiski「────《動くな》」
コマンドが、聞こえた。
恋人の、そしてパートナーの声。そう大して声量もなかったクセに、けれどシンと静まったこの部屋ではヤケに大きく響いた。響いて、真っ直ぐに俺の耳へと届き、鼓膜を揺らす。パチリとひとつ瞳が瞬いた。
何が起きたか、分からなかった。
正確に言えば、"何をされたか"、だが。
ふ、と瞳を下へ向ければ、色とりどりの料理が視界に映る。どれもこれも朝から、いや、ものによっては昨日の夜から手をかけて俺が作ったものばかりだ。あぁ、今日くらいは昼から飲むのもいいだろうと、取り寄せたワインもある。忘れていた。早くグラスに注がなくては乾杯が出来ない。
そう思い手を伸ばそうとして……あ?いや、違う。その前に何か言われたんだった。なにか、訳の分からない事を言われて。それはコマンドではなかったけれど、でも、高揚していた気分が地の底まで落ちるほどには腹の立つ言葉だったから。撤回させようと立ち上がろうとして、それで……
8213