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    これはマジで完成しないかもしれないDom/Subのiski、めちゃくちゃ途中まで。
    なんなら今の時点じゃほとんどモブkiです。

    自分じゃ書かなさそうなやつ書いてみたんですが上手くいかなかったんで、でも捨てるのはもったいない気がしたので供養。
    なんでも許せる人向け。

    #iski
    iskas
    #Dom/Subユニバース
    dom/subUniverse
    #モブki

    未完ドムサブiski「────《動くな》」

    コマンドが、聞こえた。
    恋人の、そしてパートナーの声。そう大して声量もなかったクセに、けれどシンと静まったこの部屋ではヤケに大きく響いた。響いて、真っ直ぐに俺の耳へと届き、鼓膜を揺らす。パチリとひとつ瞳が瞬いた。

    何が起きたか、分からなかった。

    正確に言えば、"何をされたか"、だが。
    ふ、と瞳を下へ向ければ、色とりどりの料理が視界に映る。どれもこれも朝から、いや、ものによっては昨日の夜から手をかけて俺が作ったものばかりだ。あぁ、今日くらいは昼から飲むのもいいだろうと、取り寄せたワインもある。忘れていた。早くグラスに注がなくては乾杯が出来ない。
    そう思い手を伸ばそうとして……あ?いや、違う。その前に何か言われたんだった。なにか、訳の分からない事を言われて。それはコマンドではなかったけれど、でも、高揚していた気分が地の底まで落ちるほどには腹の立つ言葉だったから。撤回させようと立ち上がろうとして、それで……

    それ、で?

    何も分からない。が、そのコマンドを脳が理解するより早く、ピタッと身体が動かなくなった。まるで俺の意思など関係がないと言わんばかりに。いや、実際関係がないのだ。入り込む余地もない。なんせ"本能"が、己の"Sub性"が、目の前のDomの命令を拒むことなど許さないと告げている。それも、理性が打ち勝つことなど出来ないほど、強く。
    そこまで来て漸く俺は、あのコマンドの動くことを禁止する意図を理解した。
    それでも、と。無理矢理に動かせば、直後、激しい吐き気と目眩に襲われる。ぐらりと視界が揺れる感覚に、ほら見ろと本能に嘲笑われた気がした。
    あまりの苦痛に表情が歪み呻き声が漏れてしまったが、どうやら声を出すこれは"命令違反"にはならなかったらしい。それにホッと安堵の息を零しつつ、現状は全く解決していないことに思わず舌を打ちそうになった。なんせこれだけ苦痛を味わったにも関わらず、成果は腕がたかだか数センチ高い位置に移っただけなのだ。クソが。第二性に逆らうことがこれほどまでに痛みを伴うとは思わなかった。知識としてはあったものの実際に味わうのは初めてのことだったから…と。そこでまで考えてやっと俺は、今までこのパートナーにクソ甘やかされていたのだと今更ながらに知った。理解した。いつもならば反抗したいなどと思うことは無かったから。そんな、俺が嫌がるコマンドを告げられることは無かったから。
    ……けど、今はダメだ。今だけは。

    だってこの命令に従ってしまえば、俺は、

    「っ、…ぅ、く、……ッ」

    その"未来"を想像すれば、かひゅ、と喉から乾いた音がした。嫌だ。一層、焦燥感が強まっていく。
    脳内で鳴り響く警鐘を無視してまた腕を動かそうと力を込めれば、今度はガッッと頭にバットで殴られたような激痛が走った。痛い、どころの話じゃない。次いで、先程と同様に目眩と吐き気が同時に襲いかかってくる。苦しい、なんて。そんな生易しいものではなかった。
    だから。
    一度目の比じゃないそれらの苦痛に意識が集中してしまって。
    持ち上げていた腕がピタリ、と。空中で中途半端に止まってしまって。

    「ぁ、……や、め……っ!」
    「《よし》。じゃ、そのまま《動くなよ》」

    コイツのこんなにも投げやりなコマンドは初めて聞いた。じわりと涙が込み上がり滲み始めるが、それとは裏腹にズクリと身体の奥底が熱を持つ。どうやら第二性というものは自分が思っていたよりもずっと単純らしく、これ程分かりやすく感情の籠っていないものでもDomのreward褒めは効くようだ。相性がいいのもあるかもしれないが。マジでクソみてぇな仕様だな、とガンガンと響く痛みの中凍てついていく頭の片隅でぼんやりと思う。……いや、最近はろくにプレイ出来ていないからかもしれない。なんせここ数ヶ月、コイツと顔を合わせることすら稀だったのだから、と。
    そう思った途端、先程より増してじんわりと本能が満たされていく感覚がした。最悪だ。胸の奥底から嫌悪感が喉を伝って込み上がる。これまでの人生で、己のSub性をこれ程憎んだのは初めてだった。マジでクソ。何がって?そんなもの、こんな状況でも"命令"と"褒め"を貰えたことに少しでも"嬉しい"と俺に思わせた、たったこれだけの事で"逆らいたくない"と訴えてきやがるこの本能が、に決まってる。
    思わず唇を噛めば、薄皮がプツリと破られ鉄の味が口内に広がった。その間にもこちらに近付いてきていた俺のDomが、自身の首へと両手を伸ばしてきて。先程、俺が咄嗟に触れようと、"守ろうと"していたその首筋に……そこにあるcollarに。今から丁度一年前の今日、『良く似合う』と嬉しそうに付けてくれたコイツの瞳の色をした"パートナーの証"に、手を伸ばし、触れ、そして。

    ─────カチリ、と。
    音が、耳に届いて。

    「ぅ、ぁ、………ァァあ………ッ」

    毎日、毎朝何をするよりも先に、バレないようにと隠れながらも鏡で見てはなぞって、存在を確かめては愛おしく思っていたものが。今まで当然のように存在していたソレが、喪失感だけを置き去りにしてするりと肌から離されていく。
    動けるのなら、奪い取りたかった。けれど、Stopコマンドはまだ解除されていないから。許しを得ていないから。そんな本能が理性を邪魔するせいで、俺は座ったまま動けなかったから。
    だから。
    プラプラとなんの感慨もなさそうに手に持たれたソレが、真っ直ぐに、ゴミ箱の中へ落ちていく。一切の躊躇いなくその手から離され、重力に任せて消えていく。
    見たくない、そう思うのに、何故か目を閉じることも逸らすことすら出来なかった。
    スローモーションのように流れていくこの光景が脳裏に焼き付く感覚がする。きっとこの先、ずっと忘れられないだろう。そのくらい、たった1秒にも満たないはずのその時間は、俺には随分と長く感じられて。

    まるで、地獄に突き落とされたような気分だった。

    色鮮やかなチェリーレッド。俺のcollar。今やゴミと化してしまった、大切なモノ。それがぽす、と間抜けな音を立てて完全に視界から消えた途端、プツンと自身の中で何かが途切れた感覚がした。同時に、胸にぽっかりと穴が空いたような、どうしようもないほどの空虚感に襲われる。
    切れてしまった……いや、切られてしまったソレが、この男との間の"パートナー契約"だと気づいた時にはもう、ソイツはドアノブに手をかけていて。

    「じゃあね、ミヒャエル」

    一度も振り返ることなく言い放たれたその言葉はやはりどこまでも平坦で、冷たく胸に突き刺さった。





    記憶は、そこで途切れている。








    「なぁなぁカイザー!今日のご飯なに?」

    チームの全体練習、その後の自主練習も終わり着替えていれば、同じくロッカールームで荷物をまとめていた世一が横からひょこっと顔を出しこちらを覗き込んできた。
    ホクホクと嬉しそうな、楽しそうな笑顔だ。大方自主練習でやりたいことが出来たとか、それとも前言っていたプレーが実現可能なまでに理論が組み上がったとかだろう。いずれにせよ、よく働く表情筋だこと。心なしか頭の双葉も主人と同様、普段よりもピンッと元気に立っているように見えるのが不思議だ。ちなみに双葉コイツ、世一の気分が下がっている時は一緒になって萎れていたりする。ただの髪のはずなのに。以前、一体どういう原理なのだろうかと触ってみたことがあるが、世一の髪の毛が抜けただけで結局何も分からなかった。その時は「イッテェな!?」と喚く世一を他所に1人首を傾げたものだ。また今度触ってみよう、次こそ何かわかるかもしれない。
    なんて、そんなことを思いながらちらりと視線を世一へ向ける。今日居残っていたのは俺たちだけだったから、今この部屋にいるのも俺たちだけだ。が……それにしても近いな。顔が。常々思うが、コイツにはパーソナルスペースというものが存在しないのだろうか、と首を傾げかけて、しないのだろうなと思い直して止めた。なんせ何度言ってもなおらねぇし、と内心でため息を吐きつつ、Tシャツの袖に腕を通して着替えを終える。

    「クソ近けぇ、離れろ」
    「ッんぶ!?わ、ちょ、押すことないだろ!」

    こうして押し離すだけで、そこまで強く言えない自分が悪いのだろうか。いや、にしたってやめない世一が悪いだろう。……もしかして、"嫌ではない"のがバレているんじゃないだろうな。いや、それは無いか。コイツ超がつくほどの鈍感だし。それに……いくら世一でも気付いているなら近づいてこないだろ。
    なんて。
    そんなことをグルグルと考えつつも、ほとんど触れそうな程に近づけられた顔の、その額をグイと手のひらで押して自分自身も一歩離れる。
    すると世一は、も〜!とムッとしたように怒りはしたものの、それ以上近づいてくることは無かった。その様子を見て、鼻で笑ってみせながらも内心でホッと息を吐く。この距離感には最近慣れてきたので顔色は変わっていないはずだが、それにしたってあまり長く近くにいられると困るのだ。まぁ……色んな意味で。

    「つーか練習終わってすぐなのにもう飯のことか?全く、世一くんは食いしん坊ねぇ」
    「う……だってしょうがねぇじゃん、お前の作る料理美味いんだもん……」
    「…………あ、そ」
    「?……え、あ、もしかして照れてる?照れてんだろ!」
    「うるせぇ、早く行くぞ」
    「ふぎゃっ!」

    そうしていつも通りからかい交じりに言葉を返せば、先程の笑顔から一転、不貞腐れたように頬を膨らましツンと唇を尖らせる世一。
    ハ?なんだその顔。
    成人と同時にプロとなってもう3年が経つにも関わらず、出会った当初からほとんど変わらないその童顔と話し口調に、思わず笑いそうになった。が、その前に言われた言葉によってそれは不発に終わってしまった。クソ、いきなり褒めんじゃねぇよ馬鹿が。こっちは甘やかされてきたお前と違って、あまりそういった言葉を掛けられるのには慣れていないというのに。
    加えてかなり珍しいコイツのデレを突然受け、思わず視線を逸らし顔を背けてしまった。こういうことをサラッと言ってくるからタチが悪いのだ、この男は。
    まぁそんな俺の様子が気になったのかわざわざ目を合わせるようにしてまた顔を覗き込んできたコイツのせいで、背けた意味など一瞬でなくなってしまったが。

    そういうことすっからデリカシー無ぇって散々言われんだろうなぁ?クソ世一くんは。

    しかも気づいたこと全部口に出しやがるし。
    せめてそれを揶揄うように言ってくるなら腹も立つというのに、そうではなくヤケに嬉しそうにしてくるものだから居た堪れない。怒る気も失せるというものだ。向けられる瞳もキラキラしててなんだかむず痒くて感じてしまい、ムギュっと目の前にあるその鼻をつまんでやったのは何となくだった。コイツ振り回されている気がするのが気に食わなくて、つい。魔が差したともいう。
    された世一はというと変な声を出しながら、反射的にだろう、なにか酸っぱいものを食べた時のようにギュッと目を瞑った。俺の動きに気づいていたのか、止めるために上げたのだろう両手も空中で中途半端に浮いた状態で固まっていて。
    なかなか滑稽なその姿に今度こそ声に出して笑ってやれば、次は世一がムッと眉間に皺を寄せた。が、鼻をつままれた状態だとただクソ面白いだけだ。ふがふが言うな、笑うだろうが。というかなんで手を浮かせたままなんだ、突き放しでもすればいいだろうに。
    なんて。そんなことを思いつつも、これ以上そのままでいれば俺が耐えきれない気がしたため離してやれば、世一は赤くなった鼻を擦りながら上目遣いにこちらを睨み上げてきた。
    うっわ、クソ童顔。威圧感が無さすぎる。
    まるで小動物みてぇだなと、それにまた機嫌を良くした俺は満足して、「何すんだよもー!」と子犬のようにキャンキャン吠えてくる世一を適当に宥めつつ、漸く駐車場へと足を向けた。今日は和食でも作ってやるかな、一昨日食いたいとか言ってたし。とそんなことを考えていれば、車までそう大して遠くないためすぐにつく。
    そのまま運転席側へと回ってドアを開けば、まだブーブー文句を言っている世一が先に助手席に乗っていた。初めの方は毎度"俺も運転する!"と言い出していたというのに、今ではもう諦めたらしい。当然のようにそこに座っていることに"やっとか"と内心で安堵しつつアクセルを踏みこんで、見慣れた道なりを進んでいく。そして信号で止まって漸く俺は、そろそろこのお子ちゃまの機嫌を治してやるかと思い出したように口を開いた。

    「おい世一」
    「……なに。なんだよ」
    「まぁそう怒るな、今日はお前の好きな和食でも作ってやるから」
    「えっ、まじ!やったぁ!」

    ……マジで精神成長してねぇんじゃねぇのかコイツ。
    隣で未だに頬を膨らませているこの成人男性の機嫌を取るために言ってみたはいいものの、ここまですぐ直るとは思っていなかったんだが?と、先程とは一転してニコニコと笑顔になる世一に、さすがに現金が過ぎるだろと内心でため息を零す。日本人は食にこだわると聞くしそのせいかもしれないが、いや、それにしたって。
    半ば呆れながらちらりと隣を盗み見れば、頭の双葉をぴょこぴょこと動かしながら料理名を呟きつつ今日の晩飯を真剣に考える童顔が目に入った。それに、成長してねぇのは見た目もか、と口に出したらブン殴られそうなことを思っていれば、ウンウンと悩んでいた世一が突然こちらを見上げてきて。
    パチリ、と。互いの視線が交差する。

    「うん……楽しみ。《ありがとな》、カイザー!」

    そうしてゆるりと目を細めながら放たれたその"言葉"に、ドクンと心臓が高鳴った。甘く、優しく包み込むような。そんな、理性を溶かすソレにぎゅうぅと胸が締め付けられ、衝動のままに開きそうになったその唇を、下手なことを言う前にと咄嗟に内頬を噛み締めることで何とか堪える。
    ……あぶな、かった。本当に。
    顎に力を入れすぎたのか血は滲んだが、些細なことだ。痛みすら感じない。それよりつい数瞬前何を口走りそうになったのか、何を言ってしまいそうになっていたのかが、"自分でも分からない"ことの方が余程。余程、俺にとっては問題だったから。まぁ知りたいなどとは微塵も思わないのだが。ただでさえ運転中で手が使えないのだから、口を閉じれたことは本当に幸いでしかない。本当に、間に合ってよかった。
    が、それでも湧き出す高揚感は流石に抑えきることは出来ず、体が奥底が燃えるように熱くなった。じわじわと込み上がるクソみてぇな"欲"を喉の奥に押し留めて、けれど吐き出すために口を開くことは出来ないため仕方なくゴクンと飲み込み逆戻りさせる。味などしないはずなのにやけに甘ったるく感じられ、それがどうしようもなく気持ち悪く思えて仕方がなかった。
    クソ、薬は毎日飲んでいるのに。耐性がついてきたのか最近は効き辛くなってきてしまったようだ。また強いものに変えてもらわなければ、いや、医者の話ではこれ以上強いものは無いと言っていなかったか。それは……それは、困る。
    だって。

    それでは、世一の隣にはいられないじゃないか。

    と。そこまで考えて内心で思い切り舌を打った。ハ?何が隣だ。ただの"居候"の分際で。コイツはそんなこと少しも望んでいないだろうに。もしかしたら、早く出て行けとすら思っているかもしれないのに。コイツの優しさにつけこんで、自身の願望を、欲望を押し付けようとしていたそのクソ浅ましさに反吐が出る。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち、わるい。
    吐き気がする。

    (……こんなんだから捨てられたんだろうが)

    決して音は出さずに口の中だけでそう吐き捨てて、それからそっと首を横に振った。
    幸か不幸か先程までの高揚感はとっくに冷めきっていたが、代わりに重く暗く、悪い方へと思考が移り変わっていくのがよく分かった。これはいけない。これ以上感情を乱して精神がブレると、取り返しのつかないことになりかねないというのは身に染みて知っている。そうだ、落ち着かなければ。無理にでも。これ以上迷惑をかける訳にはいかないのだから。
    はぁ、とひとつ。深呼吸にも似た溜息を吐いた。それから数秒の間、詰めるように息を止める。ハンドルを握る右手の代わりに出来うる限り喉奥を締め付けて、込み上がってきたナニカを一度口の中に溜めて。そして、形の成さないくせして酷く重苦しいソレを、一気にゴクンと飲み込んで。
    そうして胃の中に押しやるようにしてやれば漸く少しは落ち着いて、無理矢理気持ちを切り替えた。このまま運転に集中しろと自分自身に言い聞かせれば、スッと思考が冷めていく感覚がして。それに、世一にはバレないようホッと安堵の息を吐いた。

    大丈夫だ、問題ない。
    言葉にさえ、表情にさえ出さなければ、きっと、バレやしないから。

    そっとミラー越しに世一の様子を覗き見れば、ぽやぽやとしたいつものマヌケ面が視界に映る。それにほんの少しだけ肩の力が抜けた気がして、けれど同時に、その蒼が自分の方を向いていないことにチクと針が刺さったように心に僅かな痛みが走った。なんて。全くバカげた話だ。
    こんな小さなことにすら揺れ動く感情が酷く煩わしく思えて仕方がなくて、自嘲で歪みかけた表情を元に戻すためにとほんの少し頬に力を込める。この小さな動作に慣れたのはいつだったろうか。分からない。そんなもの、とっくの昔に慣れてしまったから。プロフットボーラーとなって自分自身が"商品"だと理解した時から作り上げたこの"仮面"は、今ではプライベートでも活用するようになってしまったから。そしてそれは特に最近……コイツとこうして過ごすようになってからは、尚更で。
    そしてそんな自分に、いつだって俺は嫌気が差していて。

    (……それでも)

    この気持ちを知られる訳にはいかないから、と。
    作りあげた仮面でまた、そっと自身の顔を覆い隠した。





    振り返ってみれば、日本から戻ってきた時からもうこうなるのは決まっていたのかもしれないとも思う。

    今からだいたい5年前だろうか。
    あの青い監獄イカれた施設から出てドイツへと戻った俺は、結局他チームのオファーを受けることはせずそのままバスタードミュンヘンと契約を結んだ。相変わらずノエル・ノアが主体としてのチーム構成ではあるものの、あの場で価値を示した結果俺自身にかけられたオファー額が1番高かったのはここだった為だ。俺の実力を思い知り、他所に取られまいと契約金の額を高めたのだと思えば、今はまだここにいてやってもいいと思えた。主役の座はこれから先、あの老耄から奪い取って見せればいい。ノアを引きずり下ろすためだと考えれば、環境としてもここは悪くなかったから。……まぁそんな、以前では非効率だと考えることすら避けていたことを思うようになったのは、少なからず"あの男"の影響があるのだと思うと心底殺意が湧いてくるが。こんなもの悪影響以外の何ものでもないというのに。
    アレに思考を乱されているのは癪でしかないが、思ってしまったものは仕方がない。
    そうして3年ほど経った頃、ついにアレこと世一が蘭世を連れてこのチームへとやってきた。当然、ストライカーとして。収監されていた時からノアだなんだ、バスタードだなんだと言っていたし、挙句俺に『首を洗って待っていろ』なんて宣戦布告してきやがったためきっと来るとは思っていたが。監督からその話をチーム全体にされた時、これからがもっと面白くなる予感がしてゾクゾクと背筋が震えたのを覚えている。
    初めはただの道化としか思っていなかったアイツがこれほどまでに俺の中に居座るとは思っておらず心底気持ち悪いとも思ったが、自分と同じ"目"を持つものとして潰しがいがあるのも事実。監獄内では殺しきれなかった世一を、プロの舞台で今度こそ殺してやろうと歓迎してやれば、世一も同じ気持ちだったのか熱烈なILoveYouが返されたものだ。







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    @apple_apple0601

    MOURNINGこれはマジで完成しないかもしれないDom/Subのiski、めちゃくちゃ途中まで。
    なんなら今の時点じゃほとんどモブkiです。

    自分じゃ書かなさそうなやつ書いてみたんですが上手くいかなかったんで、でも捨てるのはもったいない気がしたので供養。
    なんでも許せる人向け。
    未完ドムサブiski「────《動くな》」

    コマンドが、聞こえた。
    恋人の、そしてパートナーの声。そう大して声量もなかったクセに、けれどシンと静まったこの部屋ではヤケに大きく響いた。響いて、真っ直ぐに俺の耳へと届き、鼓膜を揺らす。パチリとひとつ瞳が瞬いた。

    何が起きたか、分からなかった。

    正確に言えば、"何をされたか"、だが。
    ふ、と瞳を下へ向ければ、色とりどりの料理が視界に映る。どれもこれも朝から、いや、ものによっては昨日の夜から手をかけて俺が作ったものばかりだ。あぁ、今日くらいは昼から飲むのもいいだろうと、取り寄せたワインもある。忘れていた。早くグラスに注がなくては乾杯が出来ない。
    そう思い手を伸ばそうとして……あ?いや、違う。その前に何か言われたんだった。なにか、訳の分からない事を言われて。それはコマンドではなかったけれど、でも、高揚していた気分が地の底まで落ちるほどには腹の立つ言葉だったから。撤回させようと立ち上がろうとして、それで……
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