営みのためのハウトゥー「いいか。二十一世紀にはセーフティセックスという概念がある」
「セーフティセックス……」
ああ、と神妙な顔でアルジュナが頷くので、カルナも神妙な顔で頷いた。ベッドに座ったカルナの前にアルジュナが立って、まるで教師のように振る舞っている。セーフティセックス。安全な性交。言葉面でおおまかな意味は理解できるものの、具体的な行動までは想像できない。アルジュナは懐から小さな包みを取り出した。ラミネートのようなつるつるした表面の包装は、リング状に膨らみが見える。
「これはコンドームという。ゴム、と言ってもいい」
「ゴム。誰からもらってきた」
「支給を希望するなら医務室まで」
アルジュナはここで言葉を切り、小さく咳払いした。「ここまではいいか?」とカルナの顔を覗き込んだ。カルナは「ああ」と頷いて、口を開きかけたところでアルジュナが「私とおまえが次の段階に進む上で、これは重要なことだ」と畳みかけた。
「我々が古い時代を生きたからといって、当時の倫理観を持ち込むわけにはいかない。二十一世紀の習慣に倣い、我々もセーフティセックスを心掛けなければ。男同士で生殖の可能性はないとしても、性感染症や腹をくだす可能性もある」
「なるほど」
彼の唱える正論にカルナは頷く。アルジュナはさらに続けた。
「少々気恥かしい話ではあるが、私たちのセックスもかくあらねばならない。いいか、カルナ」
「ああ。しかし、一ついいか。アルジュナ」
カルナが顔を上げ、アルジュナの目を睨む。アルジュナは「何でも言ってみろ」と彼の目を睨み返した。それに頷き、カルナは「オレたちにセーフティセックスは無用だ」と重々しい口調で告げる。
「なんだと」
いきり立つアルジュナに、カルナは「オレたちはサーヴァントだろう」と続ける。「だからどうした」と彼は開き直り、カルナの隣に座った。ぼふんとベッドのマットレスが波打ち、アルジュナは「それでもセーフティセックスは必要だ」と続ける。
「形式に拘るなどくだらない」
「そうだとしても、これがこの時代のルールだ」
「ルールがそれほど重大なものか」
「重大ではないとしても、守らなければならないのがルールだ」
ここまで一息にまくしたて、アルジュナはふう、と息を吐いた。カルナは「オレたちにセーフティセックスは無用だ」と繰り返す。
「無用だ」
「必要だ」
アルジュナはふてくされたように腕を組み、そっぽを向いた。カルナは少し視線をさ迷わせ、「オレを大事にしてくれる気持ちは、ありがたいのだが」と小さく呟いた。その囁きに、あ、とアルジュナが間抜けな声を漏らし、みるみるうちに頬が赤らむ。それをよそにカルナは続けた。
「オレはおまえとそのままで繋がりたい。オレにおまえの魔力をそのまま流し込め、アルジュナ。おまえの生の迸り、オレはオレの最奥で受け止めてみせよう」
「おっ、」
アルジュナは言葉に詰まり、「貴様、貴様っ」とぱくぱく口を開閉して顔を覆う。カルナは「セーフティセックスなどくだらんな」とアルジュナの方へ腕を伸ばし、彼の手をどけた。あらわになった恥じらう顔に、カルナはふふ、と微笑みかける。
「かわいいな」
その声にアルジュナが彼にとびかかり、身体をベッドに沈めた。その後の展開は言うまでもない。