静寂を愛するヨダナの話②遠く、果てを見る。
どこまでも広がる紺碧……それが目の前に横たわるだけである。だというのに、太陽の光を浴びた水面は煌びやかで美しく、同時になんとも言えない気分になる。
眼前に広がるそれは海と呼ばれるもの。原初のもの。全ての命が還る場所であると、どこの誰に聞いたのであったか。不思議と身体が落ち着くのを感じる。それはこの波と暖かな気候と、ときおり空を過る鳥の囀り以外なんの音もしないからか。まったくの無音でもなく、さぁん、さぁんと静かな音が鳴るだけ。……近い、からであろうか。
とぷり、とぷりと。揺れる水面に、そのリズムに目を閉じれば浮かぶのは闇。そして、噎せ返るような甘い香り。それは花であり、かつてこの身を浸し、産み出したギーの。否。これは……違う。すん、と鼻を鳴らして周囲の香りを胸一杯に吸い込み目を開く。なんとなく、三臨の姿で来てしまったが失敗だったな。長く伸びた髪を揺らして吹く風は陸のそれとは違い、僅かな塩気を教える。そうだ。ここはあの暖かで冷たい矛盾を抱えた壺の中などではない。
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