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    特異点の向こう側

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    オウムアムアの夢「俺は深淵から来たからね、目指すのは高みしかないんだよ」
     旅人は星空からタルタリヤへと視線を移す。長い睫毛が揺れ、彼女の朝焼けの光の色をした瞳と目が合った。彼女の瞳には不思議な引力があるとタルタリヤは常々思っている。星々を詰め込んだような眩さを秘めているのに、なぜだか目を逸らしたくはない。
    「それで世界征服?」
    「そうだよ。神の王座を踏みつけてやるんだ」
     タルタリヤは立ち上がった。ファイアオパールのような髪が、闇の中で一点の燐火のように燃えている。
    「だから、それまで君もちゃんと腕を磨いておいてくれよ。そうでないと、俺が頂点に立ったとき、命を賭けて殺し合える相手がいなくなっちゃうだろ?」
     旅人はわずかに瞠目した。長い睫毛をしばたたかせる。刹那、恒星のごとく熱く滾る光量を持った瞳に真っ直ぐと射抜かれた。その瞬間、ぞわりとした感覚がタルタリヤの四肢を駆け巡る。
    「世界征服はきみには無理だよ。何度でも私が倒すから」
     双眸の中で無数に輝く光芒から、タルタリヤは目を離せない。黎明の空を結晶化させたような白金色のブロンドヘアが風に揺れる。
    「やっぱり、君には世界征服を隣で見守ってもらわなくちゃ」
    「う〜ん。でも、私はこの世界にずっといるわけじゃないしね。隣に居続けるのは難しいよ」
     旅人はまるで世界の涯を見つめているみたいに、ここではないどこかを見ている。タルタリヤはそれがいつも気に食わない。旅人は変わらぬ平坦な口調で言った。
    「私たちには定住地はなかった。ずっと旅をしていたから。だから、空がいるところが、空の隣が、私の帰る場所だったの」
     その形の良い唇から言葉が漏れ出すのを、タルタリヤはただ見ていた。タルタリヤには雪の降る遠い町に置いてきたものがある。それは人のカタチをしていて、たまに言うことを聞かなかったりするけれど、大事なものだ。月夜の焚火のように心が揺れる。
    「今ではパイモンや、君がきてくれる塵歌壺が私の家だね。でも、それでも……帰る場所は空の隣なの」
     旅人はそっと睫毛を伏せた。拳を固く握りしめる。深呼吸とも溜息ともつかない呼気を吐き出した。その瞳に激しい感情を堪えて、鮮やかに燃やす。
    「辿り着いてって言われたから、私は行かなくちゃ。そこが星空でも深淵でもね」
     旅人は星空へと手を翳した。その横顔を見てタルタリヤは故郷の雪原を思い出す。一面の銀世界。音もなく降り続ける雪の上には足跡すら残らない。それと同じように、彼女にも何も残らない。一欠片の傷すらも。タルタリアは腹の底から血が沸々と煮え滾っていくような心地がした。
    ──怒り? ……いや、妬みかな。
     タルタリヤに鮮烈に残されているのは黄金屋でのあの闘いだ。タルタリヤの眼前に現れた彼女の肉はひどく薄かった。しかしその瞳はどんな衝撃でも砕けない宝石のような煌めきを湛え、凝然としていた。閃光のような鋭い眼差しと絶え間ない斬撃の音。惑星が衝突する直前のごときの異様な緊迫感。それは永遠を引き延ばしたような一瞬だった。瞼を閉じなくたって、いつでも記憶から取り出せる。思い出しただけでも、身体が歓喜で湧き上がる。
    「でも」
     旅人は思わず見惚れてしまうような、美しい微笑みを浮かべた。まるで羽を折りたたむようにそっとタルタリヤの耳元で囁く。
    「もし、君が頂点に飽き飽きして、寂しくて退屈になったら、そのときはきっと会いにおいでよ。私はいつでも君に敗北をプレゼントしてあげる」
     それは常時と何ら変わりない軽口のようだった。それでも、この言葉の端々に触れれば火傷では済まされないような熱があった。左胸がばくばくと音を立てて、口元が勝手に笑ってしまう。
    「『会いに来て』なんて、簡単に言ってくれるね」
    「できないの?」
     旅人はその瞳を挑戦的に細めた。わずかな光を弾いて目映く輝いている。まるで世界に二人きりみたいに見つめ合った。
    「……実を言うと、オレは結構諦めが悪い方なんだ」
    「ふふ、知ってる」
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