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    特異点の向こう側

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    夢森2 合作企画 SS ありがとうございました!

    Odds and Ends 「ねえ、初めて会った日のこと憶えてる」
     千年樹はいつも変わらぬ姿で見る者たちを出迎える。たとえ、それが世界滅亡の日であろうともこれは絶対不変だ。 頬を撫でる風はぬるく、どこか懐かしい匂いがした。
    「憶えています。きっと、どんなことが起きても、あの日のことはずっと忘れません」
    晶は目を瞑った。あの日の記憶は、いつだってメモリのすぐに取り出せるところにある。風に舞う薄紅色の花びらはまるで降り頻る雪のようだ。街はもう、ずっと遠く、遠くにある。
    「......そう」
     オーエンは短く言った。ざあ、と強い風が吹いて花びらを散らしていく。月の光を丁寧に束ねて編んだような髪が風に靡いた。 きらきらと銀の糸が舞い上がって風と戯れる。
    「旅先でどんなことを体験してきたんですか」
    「いろんなものを見た。空を飛ぶ虹色の鯨とか、地図に載ってない忘れられた小さな島とか、 宝石みたいにきらめく花びらの群れの波とか」
     オーエンは空に手を伸ばす。晶はその指先を目で追った。呑気な空だ。なんの変わり映えのない、とこしえに広がる蒼穹。
    「......でも」
    「でも?」
     晶は小首を傾げた。鳶色の髪が肩に滑り落ちる。オーエンは晶の髪についた花びらを指で払いのけた。アシストロイドに脈を打つ心臓はないけれど、いまにも互いの心音が聞こえてきそうだ。壊れかけで、美しくて、少しだけ意地悪なこの世界で、二人だけがいま、呼吸をしている。体感三十六度六分の熱。満開の大樹の花びらと同じ色をした瞳の中に晶は自分の姿を見た。
    「いつも頭の端っこにきみがいるんだ。もし、隣にきみがいたらどんな顔をするんだろう、 どんなことを思うんだろうって」
     晶はオーエンの熱で身が焼けてしまうように感じた。ホログラムが弾けてぱちぱちと消え てゆく。星の誕生にだって、きっと、これほどの熱は生まれない。それでも彼から目を離せ ない。おそらく、なにかしらの引力が働いているんだ。
    「だから、僕は気付いたんだ。空がこんなに高くて蒼いのも、海があんなに深いのも、星が いつになく綺麗なのも、きみといるからなんだ」
    「......それって」
     晶は思わず口を噤んだ。なんだかとても胸がぽかぽかとしてきて、この気持ちはなんてい
    うのだろう。嬉しいのに、なんだか酷く泣き出したいような、そんな気持ち。検索、開始。 エラー404 not found. ああ、もうそろそろ時間だ。
    「だから、最後まで一緒にいてよ。晶」
     晶は目を丸くしてオーエンを見た。でも、目線の先にいる彼はいつか見たときと同じ表情をしていたから、晶は思わず笑みを浮かべた。口元は緩み、眉は歪んで、目尻だけが怒ってい るみたいに吊り上がっている。きっと、彼と同じことを想っている。あなたと歩む世界は息を呑むほど美しいはずだ。
    「ふふ、仰せのままに。オーエン」
     そうして二人は手を繋いだ。異なる体温が皮膚の上で溶け合い、程なくして同じ熱になる。 そして世界から音は消え、色は褪せて失われて、やがて何もかもなくなった。
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