さくっとして、ふわっ。
熱々のトロトロはとても甘くて。
「なんだこれ、うっま……!」
口の中に放り込まれた揚げたてアツアツの美味さに思わず声が漏れる。
そんな俺を見て、ドラルクがニヤリと笑った。
「まだまだこれからだぞ?」
「え?!まだ美味くなるのかよ!」
これだけでも充分美味いのに。と驚きを隠せない。
ただのバナナが、こんなに美味くなるなんて!
「んっふふ、ほら、これでどうかね?」
白い皿にチョコレートソースを垂らし、揚げたてのバナナを盛り付ける。その上からメープルシロップをたらり。
「そんなの、美味いに決まってるじゃねぇか!」
退治のお礼にとバナナを沢山貰って帰った。
食いきれるかなぁとぼやいた俺に、全部そのまま食べる気かね?とドラルクが聞くので、それ以外に何があるんだよ、と返した。
すると、貸してみろ、とドラルクがキッチンから手を伸ばした。
お前も食うのか?と聞けば、何か作ってやる、なんて言う。
バナナなんてそのまま食べる以外に選択肢があるなんて思ってもみなかったけれど、まるで魔法のように美味いものが出来てしまった。
「アイスも添えてやろうか?」
「こ、これ以上美味くしてどうすんだよ!」
「おや、いらないのかね?」
「いる!」
クスクスと笑うドラルクが、冷凍庫からチョコミントアイスを取り出し、アイスクリームディッシャーでくるりと丸くくり抜いて皿に盛る。
「オマケだ。」
同じく冷凍庫から取り出した冷凍のベリー類を皿に散らした。
「うわぁぁぁ……。」
「早く食え、アイスが溶けるしフリッターが冷める。」
「いただきます!」
メープルシロップがかかっただけでも美味くなったのに、さっぱりとしたチョコミントアイスが加わったらそれはもう無敵で。
「美味しいかい?」
ドラルクの問にコクコクと頷く。
甘いソースが勿体なくて、バナナで拭って頬張る。合間につまむ冷凍ベリーの酸っぱさがまた丁度いい。
「美味かった……バナナってこんなに美味くなるんだな。」
まぁ、私の料理の腕の賜物だがね、と言いながら差し出された珈琲を受け取る。
「……バナナってさ。」
「うん?」
「皮むいたらそのまま食べれるだろ?」
「そうだが?」
「……手間、かからないからちょうど良かったんだよ。適当に腹も脹れるし。」
皮をむいてもらったりだとか、切り分けてもらう手間をかけずに済むだろ?
兄貴、仕事と家事とかで忙しかっただろうから、少しでも手間かけさせたくなかったし、退治人だったから夜に出かけることが多いから朝少しでも寝て欲しかったし。
朝飯とかも心配かけたくなかったんだ。
朝兄貴が寝坊しても、バナナ食ったから平気だ!とか言って学校行って。
「……バナナだけじゃない。」
「え?」
「どうせ君、林檎も梨も丸かじりだったんだろう?同じ理屈で言えばみかんもそのまま食べられるな?全部、もっと美味くなる。──私の手にかかればね。」
「え……でも。」
「手間だ、とでも?」
「だってそうだろ、さっきのバナナだって粉溶かしてなんか入れて油で揚げて。」
「でも。」
俺の言葉を遮ったドラルクが、
「美味かっただろう?」
そう言ってふわりと笑った。
「美味かった……。」
「それでいい。」
「……?」
「他には?言いたい事があるだろう?」
細められた目。
ゆるく弧を描く口元。
柔らかな表情に、思いが思わず口をついて出る。
「また、作ってくれるか……?」
小さい頃に何度も飲み込んだその言葉。
心臓が、どきんどきんと早鐘を打った。
「もちろん。次は溶かしバターを添えてやる。」
優しい笑顔。
許しの言葉。
髪を撫でる手。
「ちゃんと言えた若造にはバナナケーキも焼いてやろう。」
子供を褒めるような口調に、胸がむずむずする。
いつもなら、子供扱いするんじゃねえって拳を叩き込むところなのに。
何だか、酷く嬉しくて。
「さ、風呂に入ってこい。私はここを片付けるから。」
返す言葉を探して、見つけて、でも口から出せなくて。
「どうした?若造。」
引き結んだ俺の口元に何かを察したのだろう、ドラルクがガチガチの俺の唇にそっと指を這わせる。
「どうした。言ってみろ。」
コイツは、嫌な事は嫌って言う。
だから、きっと、大丈夫。
押しつけに、ならない。
独りよがりにも、ならない。
「おっ、俺もっ。」
「うん?」
「俺も、手伝う、から。」
「うん。」
「いっ、一緒に、風呂……入る……か……?」
最後の方は自分でも聞き取れないほどの小声だった。
まともにドラルクの顔が見れなくて、ぎゅっと目を瞑る。
「いいとも。」
触れた唇の柔らかさに、そっと目を開ける。
視界に飛び込んできたドラルクの嬉しそうな顔。
「お皿洗ってくれるかい?私は油を片付けるから。」
そう言って油を片付け始めたドラルクの耳先は少し赤く、そしてすこし砂になっていて。
拒まれなかった安堵と、受け入れられた喜びで、胸がふわふわとして、口元がむずむずする。
コイツにならって思える事に、驚きつつも嬉しくて。
今度また、何か美味しそうな果物や野菜を持て余しそうになったら、きっと言える。
これで何か美味いもの作ってくれドラ公!って。