LINEのトーク画面を開く。
一番上にある見慣れたアイコン。
そのアイコンをタップして、履歴を眺める。
煽り。
喚き。
泣き。
笑い。
色んなスタンプが賑やかに並び、同居人達が寝静まっている静かな部屋の中でも普段の五月蝿さを彷彿とさせる。
くだらないやり取り、他愛ない会話。
その合間に見え隠れする気遣いの言葉。
過ごす時間の違いを思い知り、一人でいるのが少し寂しいと思ってしまった時に、その一つ一つをたどる。
──早く夜にならねぇかな。
そう思いながら画面をただスクロールしていた矢先。
画面の下からにゅっと文字が現れた。
──うわっ!?
トーク画面を開いていたのですぐに既読が着いてしまう。
──やっべ。トーク画面見てたのがバレちまう!
焦ってトーク画面を閉じようとしたが、続いて鳴ったコール音にスマホを落としそうになる。
──何て言えばいいんだよ。
どうやって誤魔化すかも思いつかないまま通話ボタンを押す。
「……何だよ。」
つとめてぶっきらぼうにそう言ってみる。
聞こえてきたのは柔らかい声。
「寂しくなっちゃった?」
狡い。
こういう時のコイツは本当に狡い。
分かってて、こんな風に、こんな声で。
「……うん。」
誤魔化そうとか思っていた気持ちは消え、素直な言葉が自然と口をついて出た。
「んっふふ、おいで?」
少しだけ開いた棺桶の蓋。
隙間から見える紅い瞳。
「ほら。」
リアルな声と、ほんの少し遅れてスマホ越しの声。
二つの声にさそわれて、通話をしたまま棺桶に潜り込む。
「愛してるよ。」
──ほら、もう私でいいだろう?
促されるままに通話を切り、枕元にスマホを投げ出してドラルクの体に腕を回す。
細腕に抱きしめられながら重ねた唇は、少し冷たくて、でも優しくて。
あと数時間で夜が来て、皆起き出す時間だけれど。
早く夜にならないかと、さっきまで思っていたはずなのに。
ほんの少しだけ、ゆっくり来てくれないかなと、そんな事を思ってしまった。