年の瀬、寒さも厳しくなった折にコタツを出した。
籠にみかんを積み、煎餅に煎茶を添える。
コタツで緩みきっているロナルド君の反対側に座り、そっと足を伸ばした。
「冷てぇ!殺す!!」
コタツの中で蹴りをくらい、砂になる。
「まったく……これが恋人にする仕打ちかね。」
「お前こそそのクソ冷たい足を俺の足にわざと当てたろ。」
「私は恋人の温もりを感じたかっただけだがね?」
私の言葉にロナルド君が押し黙る。
舌戦で私に勝てると思うなよ。
ロナルド君は煎餅をバリバリと音を立てて齧り、ずずずず、と煎茶を啜る。
それから、何か言いたげに視線を彷徨わせた。
「何だ、羊羹も欲しかったか?」
「ちげーよ!」
あー……その、なんだ、とロナルド君の歯切れは悪い。
「屁をこくならコタツの外でしてくれ。」
「だから違うって!」
「じゃあ何だね。」
ロナルド君はぷいっとそっぽを向いて、
「と……隣に座れば良いじゃねぇか。」
と、小さく呟いた。
「その方が、あ、温かいだろ。」
ごにょごにょとそんなことを言い、またバリバリと煎餅を齧る。
──あーもう、可愛いな!?
「んっふふ。そうだねぇ。」
付き合いたての頃よりは幾分素直になった、その嬉しさを噛み殺しながら一旦コタツから出る。
「もう少し寄ってくれ。」
ジョンがビンゴで当てたコタツは小さくはないけれど、男二人が並んで座るには少し狭い。
ぴったりとくっついた体の側面から伝わる温もりに、ふふ、と頬が緩む。
「君は本当に温かいねぇ。」
肩に頭を預けてみる。
こめかみに伝わる体温。
──私の、ロナルド君。
その事実が妙に嬉しく感じるのは、果たしてコタツの持つ魔力か。
「は……っ!?おまっ、何っ!」
するりと腕をからませ手を握る。
この程度で動揺するとはまだまだ可愛いものだな。
「だって君が可愛いから。」
ちゅっと音を立てて頬にキスをする。
絡んだ視線の先、物言いたげな青い瞳。
「ちゃんと言って?」
そう促せば、
「ちゅ…ちゅーしたい……。」
と、消え入りそうな声。
「んっふふ、もちろん。」
そっと唇を重ねて、次は?と尋ねる。
ロナルド君は少し逡巡した後、こてん、と頭を私の胸元に預けた。
ん?と思ってみていると、遠慮がちにはむ、とクラバットを小さく噛んだ。
──ジョンの真似か?ふふっ、甘えているのか。
「んっふふ、ジョンに勝るとも劣らないいい毛並みだ。」
癖のある銀髪を撫でて、まぁるい額にキスをした。
「満足かね?」
と尋ねれば、
「もっと、ちゅーしろ。」
真っ赤な顔で小さくつぶやく。
うんうん。可愛く育った。
さすが私。
「もちろん。」
もっと、ってどのくらい?
このくらい?
ねぇ、もっと?
そんな言葉を織り交ぜながら、唇を重ね、舌を絡める。
握った手のひらはだんだんと熱く、触れる唇もその口内も熱を帯びていく。
「ね……する?」
「は?ここでか?狭いだろ。」
「君に、触れたくなった。」
ごくり、と唾を飲む音。
断る気はないようだ。
とはいえさすがに事に及ぶにはコタツは狭い。
とりあえずコタツ布団を少しだけ退ける。
あらわになったロナルド君のスウェットが、つんと上を向いていた。
「おや。」
「み…見んな。」
スウェットと派手なパンツのウエストゴムを下げながら腰を浮かすように促す。
コタツの外の少し冷たい空気に触れたロナルド君のロナルド君は、少ししょんぼりとしてしまった。
「よしよし。いい子いい子。」
項垂れてしまったロナルド君のロナルド君を撫でる。
「よしよしやめろ……。って言うかお前も出せや。」
「カツアゲやめろ。こら!私がしてやるだけでいいだろう!」
「うるせぇ!」
ぎゃあぎゃあと喚いて抵抗してみるが力の差は歴然で、あっという間に私もあられもない格好にされてしまった。
「何だよお前のだって。」
「言ってろ。」
握る手に少し力を込める。
リズミカルに扱き上げてやれば、ロナルド君から小さく声が漏れる。
負けるか、と妙な対抗心を燃やしたロナルド君も私の中心に触れる。
部屋に響く、くち、とか、ぬち、とかねちっこい音。
キスの合間に漏れる吐息は甘く、そして熱い。
「もっと。」
「うん。」
足りない刺激にもどかしさが募る。
どうにか擦り合わせたいが隣り合わせに座っているのでままならない。
「お前が上に…は無理か。狭いな。」
「横になるか。」
繋いだ手を握り直し、二人で揃って横になり、ぴったりと身を寄せ合う。
「んっ。」
「……ふふっ、気持ち、いいね。」
荒くなる息。
少なくなる言葉。
触れる体温とコタツの熱に茹だりそうだ。
「ドラこ、もぅ……っ!」
「うん、私も……。」
ぎゅっと体に力が入り、二人同時に生温かい欲を吐き出す。
荒い息をつきながら、ねっとりと濡れた手を拭い、ひどい格好だなと笑い合いながら身なりを整える。
「さすがに暑いな。」
髪が乱れてしまったついでにクラバットを外し、襟元を少し寛げる。
ぱた、とシャツを扇げば、襟元から温い空気が漏れた。
「お前、香水変えた?」
ロナルド君が鼻をすんと鳴らしてそう尋ねる。
「いや?いつもと同じだが?」
「なんか、すっげぇ甘い。」
襟元に鼻を近づけ、すう、と大きく息を吸い込んだ。
「うん、やっぱりいつもと違う。」
「ふむ。体温が上がったからだろう。香水の香りは体温にも左右されるしな。」
「へぇ。」
「……君の体温に茹だった香りだよ。」
「なっ、何でそんなえっちな感じで言うんだよ!!?」
「この香りは嫌いかね?」
意地悪くそう聞けば、柔らかく私を抱きしめて胸元に顔を埋めて、
「……すげぇ、好き。」
と深呼吸。
「素直でよろしい。ね、続き、する?」
と聞けば、
「ん〜……風呂、入ったら、この匂いなくなるよな……?」
もうちょっとこうしていたい、などと可愛い事を言う。
「かぁわいい。」
銀髪の隙間から垣間見える真っ赤に染まった耳先。
堪らなく愛おしいそれを撫でながら、顎先をくすぐる銀髪にキスを落とす。
「んっふふ。コタツって、温かいねぇ?」