『……なんか、違う。』
ロナルド君は私に鼻先を近づけ、くんくんと匂いを嗅ぎながらそんな事を言った。
「お前に貰ったこの紙、ホントにお前の香水?」
「ムエットな。正真正銘私の香水だ。」
先日ロナルド君が、『お前のお香?いい匂いだな』などと言うので『香水じゃバブ。仕方ない、ムエットあげるから持っておくといい』と、ムエットに香水を吹きかけて持たせてやったのだ。
仕事の合間、待機などに取り出しては香りを嗅ぐ姿に、可愛いものだと口元が緩んだ。
「いい匂いだけど、お前となんか違うかも。何で?」
ムエットと私を交互に嗅ぐ。
「香水はね、使用者の体臭と混じり、体温に左右されるからな。」
「……じゃあ、この紙、お前に擦りつければいいのか。」
「やめろ。言っただろ、体温が大切なんだと。」
「……。」
「ん?どうした?」
何故かロナルド君は少し顔を赤くしている。
何か面白そうな気配がするのでのってみる。
「言ってみろ。何を思いついた?」
耳元に唇を寄せ、恋人モードの声音で囁く。
ね?と頬にキスをしてトドメだ。
「う……お前と、その、してる時、お前の匂いが強いのって体温が上がってるからなのかなとか思って……。」
甘い時間の記憶が蘇ったのだろう。ロナルド君はもじもじと少し前屈みになる。
「んっふふ。それもあるが。」
「?」
「君とする時は、少し強めに香水をつけているからね。」
「……何で。」
「目を閉じても、君を抱いているのが私だと分かるようにさ。」
匂いは記憶と結び付き、いつまでも心に宿る。
「……私の匂い、好き?」
問いかけに、
「……わ、悪いかよ…。」
返ってくるのは真っ赤な顔。
「んっふふ。実はね、体温が高い所の香りは、もっと濃密だよ。嗅いでみたくなぁい?」
「何でそんなえっちな感じで言うんだよ!」
ロナルド君はさらに前屈みだ。
「首筋はほんの少し。それから手首。君に触れる時に香るだろう?それから。」
クラバットを緩めた時に襟元から香るように胸元に。
前をくつろがせ、シャツを抜いた時に香るように腰元に。
君が奉仕してくれる時の為に内腿に。
香りを立ちのぼらせるために膝裏にも。
「な…っ、何…っ。」
「君に、私を感じて欲しいから。」
キャパオーバー気味のロナルド君を抱きしめて、殊更にあまぁく囁く。
「……ね、予備室、行こう?」