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    yoshida0144

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    yoshida0144

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    葉流圭
    馬お兄様から見た2人

    ブラザーシンドローム! 我が弟、清峰葉流火。無名の都立に現れた期待のルーキーと称される奴は一言で言えば『クソ人間』である。コミュニケーション能力はゼロに等しく、野球にステータスを全振りしたせいか知性はさっぱり。見た目だけはいいらしいので言わばガワだけ完璧に張り替えた事故物件だ。
     小さい頃はまだ可愛かった。年が離れた弟として生まれたときはすごく嬉しかった。可愛くて小さくて、でもどう接していいかわからないからパッションのまま可愛がっていたらとんだ泣き虫になった。ふくふくのほっぺに流れる水晶球みたいな涙さえ可愛くて、ついやりすぎてしまったのは否めない。

     葉流火がまだ幼かった頃のある日。一緒に近所に新しくできた公園に遊びにいった日のことだ。お昼前に2人で到着すると葉流火と同い年くらいの子が数人で遊んでいた。公園の真ん中にあるジャングルジムのてっぺんで1人の男の子がバットを掲げている。どうやらあの子がリーダーでこれから探検ごっこを始めるらしい。仲間の友達が笑って集まっていった。
    「おーいそこの子も!一緒にやろ!探検隊集まれ〜!」
     リーダーの子が葉流火にむかって声をかけた。他にも公園にいた子供がどんどん彼の元に集まっていく。あの年にして人を惹きつける魅力がすごい。覇王色の覇気でも持っているのだろうか。しかしせっかく声を掛けられたにも関わらず葉流火はその場に突っ立ったままだ。
    「おい、行かないのか」
    「…………………………」
    「葉流火?どこ見てんだ?あーもう出発しちゃったぞ」
     葉流火以外の子供たちを引き連れて覇王色の海賊団、いや探検隊は公園を出ていった。残ったのは俺たち2人だけ。砂場でも行くかと思ったら突然「心臓が痛い」だの言い出したからすぐに家に帰ることになった。
     それからもその公園でリーダーの子をちょくちょく見かけた。しかし葉流火は毎回隅っこでじぃっと見つめるだけ。朝の幼稚園バスから自転車に乗せられて保育園に行く彼を見かけるらしく、自分も保育園に行きたいと母親にねだったこともあった。しかし結局卒園まで2人が会話をすることはなかった。
     小学校に入学したら同じ学校だった。ようやく近づけると思いきやクラスは別。入学から一カ月後の連休明けに葉流火はついに俺に相談してきた。非常に不本意そうな顔をしながら。一瞬浮かんだエロコミュニケーションは小学生だからまだできないので、友達を作る基本のキを教えてやった。
    「『一緒に遊ぼう』って言うだけだろ」
    「でもけ、けいくんいつも人気者だからっ」
    「はあ?」
     僕と遊んでも楽しくない、無視されたらどうしよう。またウジウジが始まったから愛のジャイアントスイングをかましてやった。我が弟ながら何故こんなに内気になんだ。俺も初対面の人は苦手だけど。そうやってどうしたら仲良くなれるか考えているうちに母親がPTAで彼の母親と仲良くなり、するすると家にお呼ばれされようやく友達になった。ついでに一緒に野球を始めることにもなった。
     
    「お邪魔します!」
     念願叶って要くんが初めてうちに遊びにきた。これが噂の「圭ちゃん」。ロリコンの気はないが年が離れた弟くらいの子供は無条件に可愛い。
    「いらっしゃい」
     弟と違って明るい。思わず頭を撫でるとうしろで葉流火が怖い顔をしていた。お兄様に向かってなんだその表情は。
    「圭ちゃん部屋こっち」
     無理やり腕を引っ張って部屋に連れて行く。その後もおやつに降りてきたところを一緒に食べようとしたら間に割り込んできた。俺は要くんと話したいのに。つかさっきからなんだその態度は!要くんが家に帰ったあとさっそく問いただしてやると、いつもボロボロ泣くくせにそのときは目を釣り上げて言い返してきた。
    「圭ちゃんに近づくな!圭ちゃんは僕が守るんだ!」
     とって食うわけでもないのに近づくなとはなんだ。むしろ俺は内向的で友達が少ないお前が連れてきた貴重な友達をもてなしてやりたかったのに!兄の愛をわからぬ愚かな弟にまたも愛のジャイアントスイングをお見舞いしてやった。
     次に要くんがきたら美味しいお菓子でも用意するつもりだった。ところが葉流火ときたら俺がいないときを見計らって家に呼んでいるようだった。それでもたまに顔を合わせたとき要くんはいつも人懐っこく「お兄さん」と近寄ってきてくれた。一人っ子だからもあるかもしれない。弟が二人になったみたいで嬉しかった。

     高学年になるにつれて葉流火は野球の才能を開花させていった。取り柄があることはいいことだ。しかし才能を開花させると共にどういう訳かクソ人間の才能まで開花させ始めた。褒められたときは「当然」と答え、次の試合への意気込みを聞かれれば「俺が勝つ」などぬかしよる。確かによく練習しているし成績も申し分ないが天狗になってはいけないので気づき次第制裁してやった。
     地区大会の応援に行った帰りにたまたま所属のシニアのチームメイトと話しているシーンに遭遇した。何やら揉めていてチームメイトたちは葉流火と要くんにブチギレで去っていった。要くんはよくわからないが葉流火は悲しきクソ人間ゆえ恨みを買ったに違いない。
     残されたクソ人間はしばらくその場で項垂れていた。そうだ反省しろ。今ならまだ人格形成に間に合う。しかしそんな奴に要くんは「気にするな」と声をかけた。
    「お前は何も気にしなくてもいい」
    「でも……」
    「それより練習に集中しろ。まだ新しい変化球完璧じゃないだろ?」
    「わかった。圭がそう言うなら」
     いやいやいや何を言っているんだ要くん!野球はチームスポーツだぞ!智将と呼ばれる彼の努力は伝わってくるし、弟を大切に思ってくれているのはわかるがそれはいただけない。帰宅後に葉流火を呼び出し「あれはやめろ」と注意したら「圭が気にするなって言った」とやはり答えた。要くんはそう言ってもダメだ。あれでは要くん共々孤立する。そう伝えると分かったとだけ答えて自室にこもってしまった。こもってしまったのでジャイアントスイングはできなかった。

     いつの間にか感情表現に乏しくなった弟。天下の大阪陽盟館からお声が掛かり、唯我独尊のクソ人間街道をハーレーでぶっ飛ばしていたある日、珍しく血相を変えてうろたえていた。要くんが病院に運ばれたという。しばらくは検査入院するらしい。今すぐ駆けつけようとする弟をぶっ飛ばして大人しくさせた。
     お見舞いに行く日、こともあろうに手ぶらで行こうとしていたので諭吉を1枚握らせてフルーツ盛り合わせを買ってから行かせた。病院から帰宅した葉流火はこの世の終わりとも言わんばかりに憔悴していた。記憶喪失で何も覚えていない。野球も葉流火のことも。フルーツ盛り合わせは買って行ったかと聞いたら買って行ったし喜んでくれたと答えた。夜、自室の葉流火を訪ねるとアルバムを眺めていた。風呂にも入らずに。
    「しょぼくれてても何も変わらないぞ」
    「うるさい」
    「要くんがお前にくれたものを記憶がなくなったことをいいことに返さないままにするのか」
     初めてできた大切な友達。いつも隣で支えてくれた要くん。葉流火を忘れたなら彼は今、世界にひとりぼっちだ。
    「貸してやる。病室にいても退屈だろうから、何か面白い動画でも入れてあげるなり自由に使え」
     古いタブレット端末をテーブルに置いて部屋を出る。流石にAVは見せられないし年が離れて流行りもわからないからチョイスは葉流火に任せることにした。
     記憶を失った要くんは何故か野球に異常なまでに拒否感を持ち出したらしい。そんな要くんに葉流火はこともあろうに野球の動画、しかも入学予定だった大阪陽盟館の練習動画を持っていった。クソ人間ここに極まれり。当然嫌悪感を顕にした要くんは退院後しばらく葉流火から逃げ回っていた。そのことを母から聞いたときはいよいよ法に触れるしかないと覚悟した。
     しばらくして葉流火が近所の小手指高校を受験すると言い出した。理由は要くんが受けるから。そりゃ彼は野球初心者になってしまったから仕方ないとして、葉流火はそれなら自分もとあっさり陽盟の推薦を蹴った。思わず背筋にゾッとしたものが走る。葉流火には「野球」と「要くん」しかないのに小手指に野球部はないらしい。つまり野球より要くんを取ったのだ。
     大好きな要くんと楽しく野球をしたいだけだと思っていた。しかしよくよく考えれば奴の世界には最初から要くんしかいない。公園で遠くからずっと見ていた、あの目。俺を睨みつけていた、あの目。執着なんて生優しいものじゃない。ドロドロのぐちゃぐちゃに煮詰まった狂気ではないだろうか。
     推薦で進学するつもりだった葉流火は受験勉強を全くしていなかった。そんな葉流火の勉強を見る毎日が始まった。死ぬ気で定時で上がって飯食ってすぐ葉流火と机に向かう。壊滅的だった頭をなんとかするのは仕事よりずっと骨の折れるタスクで正直この頃の記憶はほとんどない。合格がわかった日はマジで泣いた。決して感動したからじゃない。寝不足で充血した目から涙が勝手に流れてきた。

     兄弟二人三脚の末なんとか入学したも関わらず、はじめの頃葉流火はしばらく家でも浮かない顔をしていた。野球部がない代わりに毎日家でのトレーニングを欠かさない。寧ろ何かを振り切るように打ち込んでいた。そんな顔させるために勉強をみたわけじゃないぞ、とは言わなかった。
     野球道具を持って登校するようなったあたりから顔色が変わった。その頃は受験期の仕事がどっちゃり溜まって忙しく碌に話もできなかったが、要くんと一緒に野球をまた始めたらしい。俺の球で思い出させてやるって……こわ。本気で怖いと思った。もう要くんに同情する。
     
    「圭、荷物貨せ」
    「いいって!ちょ、いいから!」
     たまたま仕事で外に出ているとき試合帰りの2人を見かけた。葉流火が少し疲れた様子の要くんの荷物を無理やり奪い取る。番犬みたいな表情して。しかし実際はそんなかわいいものじゃない。ありゃ地獄のターミネーターだ。
     多分要くんはもう葉流火から逃げられない。逃げても逃げても世界の果てまで追ってきて、溶鉱炉に沈むときは道連れにされる。我が弟ながら恐ろしい。それでもやはり目に入れても痛くない可愛い弟だ。要くん以外の他人には一切興味がない弟。兄として1人ぼっちで野垂れ死んで欲しくない。一応今のところ女性は大好きだから必要あれば清峰家の血筋は俺が継ごう。
     よおくよおく感謝しろ葉流火。そして要くん、弟をよろしく。
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