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    yoshida0144

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    yoshida0144

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    忘バワンドロライに参加しました
    さるかわくん好きだ。

    お題「甘い/苦い」 金曜の朝に目を覚ましたときから喉が痛かった。前日の夜いきなり寒くなったからかもしれない。その日は一日なんとか過ごして部活を休んで家に帰ったら熱がでてきた。寝ていればそのうち良くなるとは思う。しかし早く治して練習がしたいと考えた藤堂はすぐに予約をとり、土曜日の午前中に病院で診察を受けた。
    「喉風邪ですね。薬だしときますね」
    「はい、あの、薬なんすが……」
    「どうしました?…………ふむ、大丈夫ですが一応薬剤師さんにもお話してください」
     一通り検査してもらったが流行りのウィルスや菌ではなかった。会計を済ませて処方箋を受け取り、クリニックに併設されている薬局に向かう。順番待ちのソファーに腰を下ろした瞬間に張り詰めていた気分が一気に抜けるのを感じた。久しぶりの風邪だったがこれならすぐ治りそうだ。休み中の食事当番は姉にお願いしてゆっくりしよう、と考えていたとき。
    「あ、藤堂さんこんちわ!」
     背後から場違いに元気な声がとんできた。気怠げに振り返れば今年入ってきた威勢のいい新入部員の顔があった。
    「猿川」
    「あ、すんません風邪っすか」
    「おう。感染るとわりぃからあんま近寄んなよ。そっちは?」
    「俺は整形外科っす。中学んときのケガがたまに痛むんで痛み止めと湿布もらいにきました」
     後輩は自身の肩を指差した。そういえばここは小さな医院が並ぶクリニックビルで、自分も過去にすぐ上の整形外科にお世話になったことを思い出した。靭帯を切ってしばらくリハビリに通ったのだ。藤堂はなにげなしに足で地面を数回叩いた。
    「あ」
     足元を遊ばせながらぼんやり昔を思い出していると突然、ドキリと心臓が嫌な音をたてた。一斉に血が身体中を全速力で駆け回り汗がダラダラ吹き出す。
    「藤堂さん?大丈夫っすか、顔色が……」
    「あ、や、だっじょぶ、で」
    「藤堂さ〜〜んおまたせしました〜〜」
     ひどく張り詰めた空気の中でカウンターから自分を呼ぶ声がした。助かったとばかりに立ち上がる。しかし。
    「猿川さ〜〜んおまたせしました〜〜」
     すぐ真横のカウンターに猿川も並んだ。おい、どう見てもここ知り合いだろ!プライバシーの保護しろよ!マスクで隠れていることをいいことに歯を剥き出しにして目の前の薬剤師に無言で訴える。しかし当然聞こえるはずもなく、患者を慮った優しい声色が薬の説明が開始した。食後…三日…。焦りのツタが絡んだ頭でなんとか話を聞き取る。
    「こちらからは以上です。何かご確認したいことございますか?」
     病に伏せた身体を癒す柔らかい声。しかし今の藤堂にとっては極刑を言い渡す裁判官のそれだ。伏せていた目を薬剤師に向けてええいままよとマスクの中で口を開いた。
     
    「あの……これ飲んだあと、…………………………甘いもの食っても大丈夫すか?」
     
     言った。終わった。一瞬ふらつきなんとか踏ん張ったものの心はいま確実に死んだ。
    「甘いもの、アイスとかですか?」
    「は、はひ……苦いの苦手で…………………………」
     思わず噛んでしまうほど強烈な羞恥が弱った身体にトドメを指す。聞かれた。猿川に知られた。俺が……粉薬が苦手なことがバレてしまった!やっべー、っべーわ!まじっべーー!!
     『へえ〜こ〜んなナリなのに、不良やってたのにお薬粉で飲めねえんだ〜〜。だっせ!あー、無理っす。この瞬間から藤堂さんのこと軽蔑しましたクッフ!』
     とある春の日につまらない一発芸でオニ滑りしたチームメイト。その彼をあざ笑った後輩たちの侮蔑の眼差しが目に浮かぶ。藤堂のストレスゲージはとっくに振り切れたが残念ながら藤堂に交代できるような人格はいない。
     いやいやどうしても無理なんだよ!粉だと苦いしバフって吐いちまうんだよ!白いマスクに隠れた裏でこれ以上ないほど歯をギリギリさせながら休み明けの自分を嘆いた。この後早速グループメッセージでこのことを言いふらされるに違いない。休み中に一年連中に知れ渡って月曜から蔑まされるんだいやだ〜〜!!
     
    「あ、すみません、これも一緒にお願いします」
     
     すっかり奈落の底に落ちていた藤堂の耳に猿川の声が入ってきた。深くかぶったニット帽とマスクの間からちらりと視線を投げる。あれは……『おくすりのもうね(チョコレート味)』。
     「薬、粉しかないんすよね?苦いの苦手で……はい、あ、袋いらないです」
     背負っていたリュックに薬と一緒におさめる。そうだよな、袋代三円かかるし。藤堂はついでにレジ横ののど飴二百七十円を支払い、猿川と同じタイミングで会計を済ませた。
     混んできた薬局を並んで後にする。外は暖かく日差しが眩しい。思わず目を細めたあと後輩のほうを振り返った。
    「お互いしっかり治そうぜ!薬のんで!」
    「はい!藤堂さんもお大事に!」
     帰ってすぐ薬を飲んでいっぱい寝た。猿川もまた薬を飲んで湿布を貼ってゆっくりして休み明けは二人とも元気いっぱいだった。他の後輩の藤堂を見る視線はいつもより少し優しかった。
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