ハロウィンとお菓子兄弟とMB「Trick or Treat!」
「……はい、どうぞ」
適当に開けた扉の先。
見覚えのある和室に繋がっていた。
それは館内である以上十分有り得る事なので問題ないのだがこの空間の主ではない存在が居て尚且つ絡まれる事になろうとは。
「今日は地球という場所がある世界では10月の31日という時間で、"ハロウィン"という記念日なのだそうだ!特にこれは"ニホン"という地域でのハロウィンらしいぞ」
「それは知ってるけど」
突然投げかけられた言葉に帽子から飴を取り出して目の前の存在…"ルブルム=ドルチェ"に渡しつつ横目で部屋の奥を見るとこの空間の主である"ヴェルデ=ドルチェ"が座椅子に座ったままでお茶を飲んでいる。
まるで関わりたくなさげに完全にこちらをスルーした上で、だ。
「……」
「まだ何か?」
ルブルム=ドルチェに絡まれると少々面倒臭い。
早めに離れようと扉を探そうとするもじっと見下ろされて落ち着かず仕方なく声をかける。
彼はきょとん、という言葉が良く似合う表情をした後軽く笑って見せた。
「君は言わないのか?ほら、"Trick or Treat"、と」
「能力的に貴方は無限にお菓子を作り出せるよね?…日本という地域のハロウィンのルール的には無敵なんじゃない?」
「……む、確かに」
「そもそも仮装もしてないよね?しないの?」
「ん?私は常に仮装している様なものじゃないか」
人ならざる者が人間そっくりに擬態している事を指しているのか、そもそもの服装が人間として見てもかなり特徴的な物である事を指しているのか。
どちらにせよ呆れてしまいついため息が零れた。
「仕方ない、それなら私が君にお菓子をあげよう!」
「え、いや……」
「やめておけ。困っているのが見えていないのか?」
不意に部屋の奥からこの空間の主の声が聞こえてきた。
こちらが見えていないかのような素振りを取っていたがどうやら見ていたらしい。
「だが兄様、折角のハロウィンなのに……」
「何回目だと思っているんだ。少なくとも████回は超えているんだぞ」
「う……いや、楽しいからつい」
「人間達の元に赴いていないだけマシかもしれないが。兎も角他者を困らせる事と作り出したお菓子を無闇矢鱈に配るのはやめておけ」
「……Trick or Treat」
「…えっ!?」
あからさまに落ち込んだ様子のルブルム=ドルチェが流石に少し哀れになってきてしまい、つい口から例の呪文が飛び出してしまった。
驚いて顔を上げたルブルム=ドルチェは少し悩む素振りを見せている。
お菓子なら幾らでもあるだろうに、どうしたのか。
「兄様から無闇矢鱈にお菓子を配るなと言われてしまったからな……仕方ない、腹を括ろう」
「つまり…"trick"?」
「煮るなり焼くなり…はちょっと痛いから勘弁だが好きに悪戯してくれ!」
「ここまで堂々とされるとやりにくいな」
ギュッと目を閉じ両手を広げたルブルム=ドルチェを前に少し考え込む。
正直悪戯する気にはならないが何かしら悪戯するまで粘られる気がする。
…適当に何か言っておこうか。
「ならお願いを1つ聞いてくれるね?」
「な、なんだ…!?」
「この"館"での時間で地球における単位である365日…つまり1年の間ハロウィン参加禁止」
「……それ、地球での時間だと考えると███年程にならないか?」
「"館"の時間は不定期に伸びたり縮んだりするから館の主次第だな」
「こんなに楽しい行事なのにか!?」
「悪戯してくれと言ったのはそっちじゃないか」
「……軽率だったな…」
「そんなになのか……」
先程よりも落ち込んだ様子の弟を見てかヴェルデ=ドルチェの憐れむような声が聞こえてきて笑いそうになるのを堪える。
仕方ない、そもそも彼はハロウィンにおいては無敵なのだ。
それに指定した時間が過ぎるまでは同じ件で絡まれる事はないだろう。
だがこんなに落ち込まれるとほんの少し、気持ち程度だが心が痛む。
彼は訪れた存在とお茶する事を好んでいた筈だ。
兄の前では余計な行動は余りしないだろうし今回は自分から頼んでみようか。
いつの間にかしゃがみこんでいた彼の肩を叩いて話しかけると直ぐに目を輝かせて頷いた。
そして楽しそうにお茶の準備を始めるのを止めるのをはなから諦めていたらしいヴェルデ=ドルチェに差し出された緑茶を飲みながら待つ事にした。