双子の人外とレコード-MB館の中を適当に探索している中で見つけた扉。
そのデザインと漂ってくる甘い香りからその扉の主を検討付けて扉を開く。
そこには──────…予想と異なり"2人"、人ならざる者が居た。
部屋は赤を基調とした甘い香りのする洋室でどこぞの青と黄色の人ならざる者を彷彿とさせる豪華な装飾がなされている。
…つまりはチョコの冠と気取った洋装が印象的な"ルブルム=ドルチェ"の空間だ。
そしてそんな空間に似合わない急須を傍らに平然と緑茶を飲んでいる緑と和装が印象的な"ヴェルデ=ドルチェ"。
この2人が揃っているとは少々意外だった。
「ん?君は確か記録媒体だと名乗っていたな!突然の来訪で驚いたよ、折角だから一緒にお茶でもしていくか?」
自分の存在に気が付いて立ち上がった"ルブルム=ドルチェ"に軽く断りを入れた後何故2人が一緒の空間に居るのかを尋ねる。
以前、やたら館内の存在の関係に詳しい夢の主…セウンフルムや何かとトラブルに巻き込まれるらしい従者から聞いたのだ。
彼等は…正確には兄である"ヴェルデ=ドルチェ"は弟の"ルブルム=ドルチェ"が苦手らしい。
弟が兄の空間に押し掛けるなら兎も角何故兄が弟の空間に居るのか。
その上平然と持ち込んだであろうお茶まで飲んでいる。
「あー…それが、私では少々不安な事があってな、それで兄様を呼んだんだ」
「……」
相変わらず無口なヴェルデ=ドルチェを横目に彼は詳細を語り始めた。
「さっきまで館の中を散歩していたのだが珍しく怪我をしている人間が倒れていてな。話しかけても反応がないからひとまずここに連れてきたはいいものの何をどうすれば良いのか困ってしまって…それで兄様を呼んだんだ」
噂によればヴェルデ=ドルチェは態度に反して親切な人柄らしい。
倒れて意識のない人間が居ると聞いたならこちらに出向いてくるのも納得は出来るかもしれない。
「兄様はこういうのが得意だからな!あっという間に手当を済ませて今は奥の部屋で寝かせてるぞ。傍に居てやった方がいいんじゃないかと思ったんだが兄様に止められてしまって」
ルブルム=ドルチェに視線を向けられたヴェルデ=ドルチェがそっと茶碗をテーブルに置いて口を開く。
「この館は人間には余りに異様な場所…きっと何処かの部屋で怪我したのだろう。俺や弟にも当然警戒する筈。1人で落ち着ける時間が必要だ」
「だが…勝手に出て行ったりしたら危ないんじゃないか?そもそも怪我もしてるし…」
心配そうなルブルム=ドルチェにヴェルデ=ドルチェはまだ湯気の立つ茶碗を見下ろしながら答える。
「動いても問題ない位の手当はしてある。俺達に警戒して密かに他の場所に行こうとするのも見越して近くの危険な扉は封鎖しておいた」
「そうなのか!?いつの間に…」
「俺達がどれだけ人間に好意的であったとしても人間にとって俺達は"人ならざる者"。…出来る限り関わらない方がいい」
そう言って口を閉じたヴェルデ=ドルチェはずっと無表情のままだ。
対するルブルム=ドルチェは心配そうに目を泳がせながらも元々座っていた椅子に座り直した。
「もう気にかけてないなら元の空間に戻ればいいのに…兄様は人間に物凄く優しいよな。そんな兄様の事、私は好きだ!」
楽しげに笑ったルブルム=ドルチェに見向きもせずに彼は肯定も否定もせずにお茶を飲んでいる。
「そういえば君は本当にもう行ってしまうのか?もう少しゆっくりしていけばいいのに」
再度断りを入れて近くの扉に手を伸ばす。
ヴェルデ=ドルチェの発言通りならば危険な部屋には繋がっていない筈。
「それにしてもあの人間、何処かであった気がするんだよなぁ…前に館の主と一緒に居たような。白い耳付き帽子に見覚えがある気がしてね」
「……奇遇だな。俺もだ」
そう聞こえてきた声に彼等が言う「人間」に会ってみたかったかもしれない、と後悔した頃には背後の扉は消えていた。