愛は呪い その人がバラティエに現れたのは、よく晴れた三月二日のことだった。
その日、いつものようにウェイターが不足していたことを理由にサンジは朝からスーツ姿でホールに立っていた。そして、コックとウェイターの仕事を交互にこなしながら、閉店の二時間前になった頃。彼は、なかなかに珍しい一名での予約客を出迎えた。
バラティエに一人で訪れる客はいないわけではないが、極端に少なかった。いわゆるおひとり様をお断りしているわけはないのに、一人での来店が少ないその理由は、海上レストランという立地上(地の上にあるわけではないが)一人きりで行くには些かハードルが高いからであった。
そのため、わざわざ一名でバラティエの予約を取る客は一風変わっている人間が多い。他店の視察だったり美食家を名乗る人間の道楽に付き合わされたりと、正直サンジにはあまり良い記憶がなかった。
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