神父と淫魔 №9「扶揺」
暗い扶揺の部屋のドアを開ける。
慕情は部屋の中にすすみ、ドア側を背にベッドで丸まっている扶揺の側に立つと、肩を掴み引いて自分の方へ向ける。
廊下からの光だけでは顔色まで分からないが、目を開けるのも辛そうなのは分かった。
慕情はベッドの端にすわりシャツのボタンを外して前を開けてから、扶揺のシャツを脱がせた。それから扶揺を座らせようとしたが、一人では支えられないようですぐに倒れそうになる。
それを抱き留めて自分の身体に沿わせる。
肩に頭を乗せさせて身体をくっつける。背を擦りながらしばらくそのままでいると、不意に扶揺が動き慕情の腰に両腕を回した。
「話せるか」
「なん……とか」
精気を使い切りそうな扶揺は動けなくなっていた。
素肌を合わせて慕情は扶揺に精気を分けていたが、ただ触れあうだけではたいして回復はしない。
慕情は小さく息をついて扶揺の顔を上げさせると唇を重ねた。
口をこじ開けて扶揺の舌を絡め取る。お互いの唾液が混じり合って、扶揺はそれを飲み込んだ。
それなりに長い時間が過ぎた頃、扶揺は慕情から顔を離した。
「もう大丈夫」
そう言って慕情の腰に回してた手を解いた。
「そんなにまでなって何故南風を食わない」
「……強引な事をしたら教会に私たちの事が知られてしまう」
「だったら他の人間を食うしかない」
慕情に言われて扶揺は一度身体を震わせた。
「……この街を出て行くか?」
跳ねるように顔を上げた扶揺の顔はひどく苦しそうに歪んでいた。
慕情は分かっている。扶揺はもう南風以外に触れたく無いと思っていることに。
だから、街を出ても無駄なのだ。
このままでは扶揺は餓死してしまう。
――私の精気を分けてやるしかないか……――
「しばらくは私がなんとかしてやる。でもずっとは無理だからな」
扶揺が力なく頷くと、慕情は扶揺を抱きしめて息をついた。
――兄の方からなんとかするしか無いか――
けれど、あのくせ者の神父を取り込むには骨が折れるだろうし、やり方を間違えればひどい目に遭うのは簡単に想像がついてしまう。
それでもなんとかしないと扶揺を助けてやれない。
厄介なことになったと思いながらも、扶揺の後ろ頭を撫でた。