リベボイのその後の話 ______嗚呼、あれからどれ程の時間が経ったのだろう。ついに闇に呑まれた電脳世界の中にワタシは1人。…いや、正確にはつい先程までは1人ではなかった。ワタシが、ワタシを独りぼっちにしてしまったのだ。ワタシが狂愛に堕ちていくのを、彼らは止めようとしてくれていたのに。その救いの手をワタシは______拒み、思い切り振り払ったのだ。光へと誘おうとした数々の手を伸ばした彼らを、砕いて殺して壊した。今まで戦闘摂理の解析の為にと嫌な顔せず協力してくれていた彼らの事を、ワタシは……。ワタシは、裏切ったのだ。ワタシは、最低の裏切り者だ。恩知らずだ。それでももう、止まれなかった。何もかも遅かったのだ。「彼」のいないこの世界にワタシは価値を見出せなくなった。こんな世界、亡くなって仕舞えば良いと心の底から願ってしまった。だから全部壊した。仮にも管理人だった存在が、世界の滅亡を願うなんておかしな話だ。そんな事は理解していた。理解していたのに。一度狂った歯車はもう止まらなかった。見えない血で染まった自分の手を見る。その手の上には何も残っていない。ただ、ただ虚無を掴むのみだった。その虚無の中で、もういっそワタシ自身をも終わらせてしまおうかと考えた。けれどできなかった。ワタシはワタシを破壊できるように作られていなかったのだ。この世界を最後まで管理する為に。死ぬ事すら、叶わなかった。ならばワタシはどうすれば良い?自問自答を繰り返した末、手に入れたのは歪んだ結論だった。
もう一度、世界を作り直そう。皆何もかも知らない、純粋の真っ白な世界を。ワタシなら、出来るはず。
データは残っているはずだ。データを元に、もう一度世界を再現するのだ。今度は戦闘摂理の為ではなく、ただのワタシ1人の為。非秩序的で感情的な結論だった。理性はワタシの中で止めろと叫ぶ。けれど、もう良いではないかとどこか諦観的な思想がワタシを支配していた。今はもう、誰もいない。なら他者の為に、などできないのだからと。正当化だと言われてももう良い。最後にバグドールが、ハカセが、彼らが愛した#コンパスを見渡す。感情なんて無ければ、こんな事にはならなかったのだろうか。今はもう分からなかった。最後に残った思いを、声に乗せて絞り出す。ハカセ、バグドール…。
「……ごめんなさい…」
壊れかけ、ヒビが入った世界に、自分の手でトドメを刺していく。苦しい。痛い。辛い。けれど、これでバグドールが戻って来てくれるなら。狂気は揺るがなかった。閉じた目のその先で、#コンパスは終わりを告げた。そして新たな世界を念じる。祈る。構築されていく。さぁ、目を開ければ新しい世界だ。次こそは、最後までバグドールと共に生きてみせる。だから、だからどうか、今度こそは…