第一印象から貴方に決めていた え、すっげぇ顔がいい
それが隣人として挨拶をしにきたクラさんを見て抱いた第一印象だった。
痩せて頬はこけていたが、顔の長さも顎の形も完璧であったし、眉の形にセクシーなのがあると初めて知った。はっきりとした二重も、意識の強そうな目もいい。鷲鼻も完璧な形をしていたし、唇なんて動いているのをずっと見ていられる。
しかも顔だけではない。唇から漏れだす音も腹の奥に響いて心拍をあげるものであったし、数分話すだけで彼の聖人すぎる人柄は知れた。
外見だけでも推せるというのに、内面も推せるとか、もうそれは推すしかないでないか。
だから隣人という利点を最大限活かして、日本に来たばかりで転化したばかりだという彼の世話をやいた。
使い方が分からないという電化製品の使い方を教えて、日本語を教えて、現代の常識を教えて、これ貰い物なんですがと家具やら服やらプレゼントして、あれやこれやと世話を焼き、いつしか吉田さんとも仲良くなり、便利モブ会なんてものも定期的にひらくようになった。
毎日とはいはないが、日々が楽しい。
悩みといえば……
「推しに課金できないんです!」
空になった缶ビールを机に置きながら、吉田さんに愚痴る。今日は吉田さんと二人の便利モブ会だ。
「おかしくないですか? 推しですよ? 貢ぐものでしょう? お布施もスパチャもできないって、おかしいですよね? 壺買えっていわれたら買いますよ俺。いっそグッズ販売とかしませんかね? 買い占めますから」
五本目に手を伸ばそうとしたら、なぜかオールフリーと変えられる。まぁ美味しいからいいが。
「出会った頃は貰い物の処理に困っているといえば金券でも貰ってくれたのに! 今では『ダウト』とか『ミキカナエ、マタ話シ合イガ必要ナヨウデスネ』ですよ! クラさん貯金が貯まる一方だ!」
わぁぁぁんと泣き真似をすれば、吉田さんがんーと悩んでから言ってくる。
「誕生日プレゼントとかクリスマスプレゼントとか特別な日だけ課金するというのは?」
「確かにイベントでは課金ですが、額を決められてるんです。足りない! 全然足りない!」
「あ〜、流石クラさん、対策済みですか」
「それに恋人となれたんですよ! 追加課金とか発生しないのおかしくないですか!? あの顔面をまじかで見られるチケットを手に入れてるのに金が発生してないのはおかしい!」
「おかしくないんですよねぇ」
のほほんと言われて、うううううと机に突っ伏す。
「おかしい……恋人ですよ? 飲み会の終わりにだけ呼ばれて会計させられたり、誕生日にはブランド物をおねだりされたり、病気の親の話をされるはずなのに」
「三木さんの今までの恋愛遍歴が気になるなぁ」
「え? いませんよ?」
「はい?」
「クラさんが初めての恋人です」
恋より金を稼ぐのに必死だったし。
「じゃあさっきの恋愛観は?」
「スマホで時たま流れる広告からだったり、仕事先で彼氏の愚痴とか耳にして」
「……えぇーと、ちょっと拗れるのが予想できるので聞きますけど、さっき言ったような会計だけまかされたり、ブランド物買わされたり、いもしない病気の親の為に金を払ってクラさんに課金したいから、クラさんと付き合ったんですか?」
「…………」
グピリとオールフリーを飲む。
「………………」
もう一口飲んで、
「……………………」
飲んで、
「……………………………」
空になってようやく、小声で答えた。
「……違って、好きだからですけど」
「よかった!」
吉田が胸を撫で下ろす。
「いやぁ、よかったですねぇクラさん」
ニコニコと吉田が三木の後ろに向かって話しかける。
え?
と振り返れば、いつの間にかクラさんが立っていた。
どこか怒ったようにも見えるその顔はとても良くて、やはり課金が必要なんじゃないかと思った。