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    60_chu

    @60_chu

    雑食で雑多の節操なし。

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    60_chu

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    過去作

    キンプリのシンルヰ

    #シンルヰ
    sinrui

    シグナル「ルヰくん、赤だよ」
     左手首にシンの指が絡んだ。街の道路は夜でも明るい。橙と銀色の街灯がずっと先まで並んでいる。冬の空気は澄んでいて遠くの明かりまでくっきりと見渡せた。
    「危ないよ」
     シンは指に力をこめるとゆっくりとぼくの腕をふった。車も人もほとんど道にいない。川べりで話し込んでしまったぼくたちを置いて、あっというまに夕陽は沈んでしまった。だから危なくなんてないのに。それでもシンはぼくを歩道につなぎとめている。
     この世界には誰もいないのに信号を守る人と守らない人がいる。シンは守る人なんだけれど、それはすごくシンらしいことなのだと思う。彼の瞳と煌々とした電灯が同じ色で輝いている。
    「ありがとう」
     微笑んで横に並ぶ。シンは照れたように軽くうなずくと、指をほどいた。とっさに離れそうになる指を掴んで手のひらでつかまえた。ぼくはさっきのシンのように手首をにぎりしめた。シンは小さく驚いた声をあげたけれど、知らんぷりをしてしまった。これは意地悪に入るのかな。
     信号は赤い瞳を瞬かせてもうすぐ青に変わることを示していた。ぼくたちは黙って赤と青の光が入れ替わるのを見届けた。同じ方向を見ているってわかることが少しうれしくてさびしくもあった。
     夜風が髪を乱して、思わず目を閉じた。隣でがしゃんと音がした。
    「ごめん。倒しちゃった」
     自転車がシンの傍に横たわっていた。カラカラとタイヤが空中で回っている。左手だけで支えていたからバランスを崩したのだとわかったけれど、ぼくたちは何も言わなかった。誰もいない歩道の隅でぼくたちは自転車をいっしょに起こした。そうこうしているうちに青い瞳が瞬きをはじめてまた赤に戻った。
     シンはしっかり両手でハンドルを持っていた。いつもそうしているはずのに、ぼくは両手が手持ち無沙汰な気がしていた。背中に回して両手を組む。指で指をもてあそびながら足元のタイルを見つめた。
    「ルヰくん、あのね」
     シンはうつむいたぼくを覗きこもうとしているけれど自転車を持っているからうまくできないといったポーズで、ゆらゆらともどかしそうにハンドルを揺らしていた。
    「僕、つぎは歩いてくるから」
     また信号の色が変わった。きっと何回もなんかいも変わっているに違いなかった。ぼくらは夜が更けることも気にしなかった。ぼくが顔を上げて赤い瞳とやっと目が合った。
    「約束する」
     うん。息が白くなってシンの顔にかかる。
     また明日ね。シンの息も熱い煙になってぼくの頬を撫でた。
     信号が月のように青く僕らの頭上にあった。
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    60_chu

    DOODLE過去作

    Pと諸星きらりちゃん

    THEムッシュビ♂トさん(@monsiurbeat_2)の「大人しゅがきらりあむ」に寄稿させていただいた一篇の再録です。佐藤心、諸星きらり、夢見りあむの三人のイメージソングのEPと三篇の小説が収録された一枚+一冊です。私は諸星きらりちゃんの小説を担当しました。配信に合わせた再録となっております。
    ハロウィンのハピハピなきらりちゃんとPのお話になっております!よろし
    ゴーストはかく語りき シーツを被った小さな幽霊たちがオレンジと紫に染められた部屋を駆け回っている。きゃっきゃっとさんざめく声がそこにいるみんなの頬をほころばせた。目線の下から聞こえる楽しくてたまらないという笑い声をBGMに幽霊よりは大きな女の子たちは、モールやお菓子を手にパーティーの準備を続けているみたい。
     こら、危ないよ。まだ準備終わってないよ。
     そんな風に口々に注意する台詞もどこか甘やかで、叱ると言うよりは鬼ごっこに熱中し過ぎないように呼びかけているって感じ。
     あ、申し遅れました。私、おばけです。シーツではなくてハロウィンの。私にとっては今日はお盆のようなものなので、こうして「この世」に帰ってきて楽しんでいる人を眺めているんです。ここには素敵な女の子がたくさんいてとても素晴らしいですね。
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    60_chu

    DOODLE過去作

    カヅヒロ
    シンデレラは12センチのナイキを履いて まるで二人にだけピストルの音が聞こえたみたいに、まるきり同じタイミングでカヅキとヒロは青信号が点滅し始めたスクランブル交差点に向かって走っていった。二人はガードレールを飛び越えてあっという間に人ごみに消えていく。さっき撮り終わった映像のラッシュを見ていた僕は一瞬何が起こったかわからなくてたじろいだ。
    「速水くん達どうしちゃったのかな?」
     僕の隣で一緒にラッシュを確かめていた監督もさっぱりだという風に頭を振って尋ねてくる。
    「シンデレラに靴を返しに行ったんですよ。ほら」
    はじめは何がなんだかわからなかったけれど、僕はすぐに二人が何をしに行ったのか理解した。
     赤信号に変わった後の大通りにはさっきまであった人ごみが嘘のように誰もおらず、車だけがひっきりなしに行き交っている。車の向こう側から切れ切れに見える二人はベビーカーと若い夫婦を囲んで楽しそうに話していた。ぺこぺこと頭を下げて恐縮しきっている夫婦を宥めるようにヒロが手を振った。その右手には赤いスニーカーが握られている。手のひらにすっぽりと収まるぐらい小さなサイズだ。カヅキがヒロの背を軽く押す。ヒロは照れたように微笑んで肩をすくめるとベビーカーの前に跪いた。赤ちゃんは落とした靴にぴったりの小さな足をばたつかせる。ヒロはその左足をうやうやしく包んで爪先からスニーカーを履かせていく。
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