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    Honte_OshiCP

    熱が赴くままに書いたもの達の保管庫

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    Honte_OshiCP

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    久々にベンケンを書きました。一応事後です。

     ベッドサイドに置いた十字架を、血潮で赤くなった指先がつまむ。首元に掛けたそれのチェーンの隣に玉の汗が光っていたから、思わず拭った。触れて一センチだけ擦れただけだというのに、インナー越しの背中がすくんで震えた。
    「…なんだよ、くすぐったいぞ」
    「汗拭いただけだよ、金属が錆びるだろ」
    「そいつは良かった。あと一回なんて言われたら俺死んじまうからな」
     へろ、と力なく微笑むケントの頭を一度撫でて、先にシャワーを浴びる為にベッドから這い出た。

     ざっとシャワーを浴びて戻った部屋で、ケントは未だベッドから動いていなかった。風呂はどうするのかと尋ねようとした矢先、悟った。動けないらしい。ちょっと忌々しそうに体を起こしたケントの隣に腰を下ろすと、彼は非難がましい顔で俺を見上げてきた。
    「…たまには手加減してくれてもいいんじゃないのか」
    「馬鹿言うなよ、最後もう一回ねだったのあんただろ」
    「いやいや、俺一応年増だぞ? 君が色々慮るべきだと思うんだがね」
    「その減らず口叩けるならまだ元気だろ」
     起き上がろうとして結局諦めたのか、ケントは再び皺の寄ったシーツに頭を預けた。くたびれた表情の赤らみはだいぶ引いていたが、四肢は些か脱力感を拭えないようで、かくりと震える。眉尻を下げた顔つきで、ケントはけろりと思い出したように、水が飲みたいとねだってきた。悪いね、と小さく呟いた事に少し調子が狂わされるような気がした。キッチンでグラス一杯分水を注いできて、再びベッドサイドに戻った。
    「ほら、足りるか」
     差し出したグラスを目に留めると、ケントはどこかほっとした顔になった。再び、悪いね、と呟いて彼が手を伸ばしてくる。シャツをかろうじて羽織っただけの身体からシャツがずり落ちて、ボタンを留めていない袖口が肘まで下がった。俺より細い手首が露わになる。よく見ると、その手首に小さな細い傷がついている。トゲでも刺さったのかと訝るが、次の瞬間にはそれの正体を悟る。
    爪の痕だ。おそらくは俺がつけた掴み痕だ。ひどく気まずくなった。
    「…あー…手首、痛いだろ。悪かった」
    「ん? あ、これか? 別にさして痛くないから気にするなよ」
     あっけらかんと俺の謝罪を流して、ケントはグラスを受け取った。手はやや震えて覚束ないのに、彼はグラスを傾ける。ガラスの奥に、ライトスタンドの光が透けてゆらゆら揺れている。ぼやけた白色が唇に吸い寄せられる景色がなんだかよろしくないように思えて、大して悪い事もしてないのに顔を逸らした。
    「…ん…ぅ、おっと…」
     困ったような声がくぐもるのを聞く。向き直った先に居るケントの口の端から、二筋の水が垂れていた。グラスを慌ててベッドの横に置いて、顎と膝と、数滴こぼれた水をティッシュで拭き始める。
    「いや、ごめんって…手元が狂っただけなんだけどな」
     苦笑いして、ケントはティッシュをベッドに押し付ける。しかしまともに力が入っていないのが分かった。腰が言うことをきかない所為なのだろうが、体勢が上手く取れず、どうやら力を入れられないらしい。腰を据えようにも倒れそうになっている。

     ──もちろん、俺に嗜虐の趣味はない。しかしそのきまりが悪そうな横顔を見ていると、どうにも良くないものを覚えた。
    「ケント、なあ」
     呼びかけてそそくさと水滴をすべてあらかた拭う。ありがとう、と無邪気に礼を言うケントがグラスに手を伸ばすが、少しだけ早くそれを掠めとる。君も飲みたいのか、と呑気な言葉に是も非も返さず、俺は水をひと口含む。
     そのまま、ケントの顎をつまんで口付けた。
    「え、なにして…ん…!?」
     目の前に迫った影がたじろいだ。押しのけようと突き出したであろう腕は言わずもがな力がほぼ皆無で、容易く片手に収まった。動揺してはくりと開いた唇の隙間に、水を押し込んだ。喉の奥のほうから、ほんの少し苦しそうなうめき声と、艶めいた息を呑む音が押し出されて、水分と一緒にまた押し込められていく。嚥下を終えたのを見届けてから口を離すと、ケントは信じられないものを見るような顔で俺を見ていた。まるでキャンディを手のひらから取り上げられた子どもみたいな目つきで、申し訳ないが笑ってしまった。
    「あんな危ない手つきで水なんか飲めるかよ。これ以上ベッドにこぼされてもアレだからな、仕方ないだろ?」
    「は…っ、いや、君なぁ…」
     掌を掲げて制止を求めるケントの目の前で、再びグラスを傾ける。げ、と言わんばかりに愕然とするケントの顔が視界の端に見えた。我ながら意地が悪いもんだと思う。恩人且つ親友である聖職者の身を暴いた挙句、こうしてまた奴を弄ぶ。しかし同時に、仕方がないのだと思う。なまじ、よがる顔つきといじらしく天邪鬼な言葉が俺の琴線に触れるのがいけないのだ。そう転嫁しなければやっていられない。
     再び唇を合わせて、水を与えて、細まった目を覗きこんで、それを何度も繰り返した。段々と抵抗が意味を成さなくなっている。そうしてグラスの水かさが半分以上減った頃、また口づけた俺の手首をつかむ熱い体温を感じ取った。少し目が痛くなるくらい目線をずらすと、細っこい手指が絡みついていた。胸元へ引っ張りながら、ケントは俺の手首を握りしめていた。微熱に浮かされたような朱の顔色が、またしとっと汗ばむ。いたずらに手首を引っ込めてやろうとした。案の定、奴の手は取りすがるように俺の手首を強くつかんで離さなかった。
     ──この神父、相変わらず焚きつけるのが上手い。
     グラスを適当な場所に安置し、片腕をシーツについてケントのほうへもたれかかる。意表をつかれたようで、ケントの口が少しだけ開いた。口の端からこぼれた水を行儀悪く舐め取った。バランスを失ったケントが仰向けに倒れ込む。再びぐしゃぐしゃのシーツに沈み戻った自身の状況に、ケントは半ば焦っているようだった。
    「えっ? おい、ベン、君まさかとは思うが」
    「…正直、キた。あんたの所為だ」
     首筋に控えめに歯を立てた。耳元でケントが息を詰め、震えた声で、こら、と吐き出した。足元からずるずると、シーツを蹴ってもがく音がしている。
    「言ったろ、これ以上は死んじまうって…こら、言う事きくんだ、なあ」
    「…年上風吹かせるとこも案外かわいいもんだよなぁ、アンタ」
     そう告げた途端、文句が一瞬ぴたりとやんだ。そのまま覆いかぶさってまた手を取ると、ひどくもどかしげに人差し指を俺の指の腹に這わせてきた。口の端が吊り上がる。 
     この仕草は、満更でもないときにしか見せないものだ。
    「…ったく、社交性もへったくれも無いのに口だけは上手いな、君は」
     熱を帯びた声で揶揄を吐き出すケントが、諦めたように首を振って腕を伸ばしてきた。呆れを露わにした様子とは裏腹に、ずいぶん素直に口づけを求めてくる。軽く口先をつき合わせるだけのキスで応えてやると、くすぐったそうにけろりと笑う。疲労と情欲でくたびれた表情の中で、目線がわずかに鋭くなった。
    「ちょっとは優しくしてくれよ」
    「そいつはなんとも言えないな。引き返すか?」
    「…まさか。おいで」
     不意にこぼれた柔らかい口調に、腰が重くなる。まだ夜が長くなりそうだとぼんやり思いながら、着けっぱなしの十字架を手で覆い隠した。
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