激怒る犬神、選択ぶ蝙蝠、微笑う鬼左腕をチェーンソーに代えた呪具は、自らの体で敵の攻撃を受けながら、攻撃を繰り出した枝を切り落としていく。回る骨の鎖は吸血桜の体を抉り千切って、内側の赤々とした欠片を散らしていく。勿論呪具の青年も完全な無傷ではなく、刺し貫かれた肌の内側からぽたぽたと赤色の体液が零れている。最初こそ星空じみた闇と煌めきで包まれた肉体も、内側は生きた人間とさして変わらない構造になっている。彼は別段、無痛でも無敵でもない。
(動けない程度じゃないけど、煩わしくはあるかな)
ならば攻撃を受けずに先手を打てば良いのだろうが、そこに思考が剥かないのは自分の暴力性への無意識の嫌悪があるからだろう。元は人間であった呪具、梔子は分かりやすく傷を負わない限り悪意を返すことが不得手である。
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