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    sato

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    九龍if もしもの夏の話。
    CP要素ありません。
    (元ネタは九龍の某テレカです)

    #九龍妖魔學園紀
    kowloonDemonAcademy

    夏の日の そこになだらかな乳房があった。掌からこぼれ落ちそうな程のそれは、触れたら崩れてしまうような脆さを感じる。文句のつけようもない。乳房をありがたい丸み、と表現した作家がいたらしいが、確かにその通りだった。乳房はそういう存在であれば良いと思う。
     しかし小ぶりな乳房も捨てがたい。掌に収まるサイズも良いし、小皿をひっくり返したような大きさのものにも慎ましさを感じられるのが魅力的だ。どんなものでも、そこに乳房があれば視線が吸い寄せられてしまう。皆守がカレーライスの匂いを嗅ぐと唾液が出るのと同じで、条件反射なのだ。ま、俺は胸なら何でもいいんだけど」
    「どっからお前の台詞だ!!」
     何故か叫ばれた。

     夏の暑い日。海が一面に見える浜辺で、葉佩達は砂遊びに興じていた。興じる、と言っても半ば無理やり連れてこられた皆守がビーチで横たわってうとうとしているところを砂で固め、そこに乳房を強調した女体を形成しただけだ。
    「八千穂が聞いてたらどうするんだよ」
     日焼け防止のラッシュガードに付着した砂をはたいて、葉佩は皆守に答える。
    「さっき白岐と飲み物買ってくるって言ったじゃん。夕薙も一緒だし大丈夫大丈夫」
    「お前な……あ」
    「おー、もう戻ってきた」
     話しているうちに人影が見えてきた。数は3つ。そのうち1人は袖なしのワンピースに身を包んだ白岐で、あとの2人は水着を纏った八千穂と夕薙だ。
    「九龍クンに皆守クン〜! お待たせ!」
    「……飲み物、買ってきたわ」
    「近くに出店もあったんでな、食える物も調達してきたぞ」
     そこで3人は女体化した皆守に気付く。八千穂は目を丸くした後に笑い声を上げ、夕薙もそれに釣られた。
    「なんだ甲太郎、随分スタイル良くなったな」
    「ほっとけ」
    「アハハッ! 皆守クンってば、ナイスバディになっちゃって〜。すっかり海を満喫してるじゃない」
    「あのな。これは俺がうたた寝してたら、いつの間にか九龍が勝手にやっただけで、」
    「これ九龍クンが作ったの? すっごく器用だね!」
    「ヘヘヘッ、いーでしょ。頑張って作った甲斐があったぜ」
    「聞けよ!」
     一方白岐は無表情で砂の女体、具体的に言えば胸元を見つめている。着用していたつばの広い帽子を被り直して、ぼそりと呟いた。
    「……葉佩さんらしいわ」
    「え?」
    「いつも見てるから」
     瞬間、葉佩はその言葉の意味を悟る。無数の汗が背中を這っていった。
    「…………そ、そんなに分かりやすかった? 俺」
    「わからいでか」
    「まァ、見ての通りではあるな」
     皆守と夕薙がそれぞれ同意する。
    「ねェねェ白岐さん! これ早く飲もうよ。ぬるくなっちゃう」
     無理やり話題を変えた八千穂が、咄嗟に白岐へラムネ瓶を渡す。白岐は八千穂から受け取ったそれをじっと見つめた。瓶に入ったビー玉が気になるのか、しげしげと観察している。
     蓋を開けようとするものの、手には迷いが見てとれた。瓶の天辺から底まで目を近づけて、どうしたものかと首を捻っている。
    「開け方知ってる?」
    「……わからないわ」
    「じゃあ、あたしが代わりにやるからちょっと待ってて! 確かここをこうして……」
     慣れた手つきで八千穂が栓を開けるとポン、と一際大きな音がした。それを聞いた白岐の身体が固まる。
    「あ、ごめん。びっくりしたよね」
    「え? い、いえ……あの……」
    「はい、どうぞ!」
    「あ……ありがとう」
     屈託なく笑う八千穂に、白岐は戸惑いながらも瓶を受け取った。恐る恐る口をつけてごくりと嚥下し、彼女は目を瞬かせる。
    「美味しい」
    「そっかー。良かった」
    「どうして……そう思うの?」
    「だって美味しい方が良いでしょ。白岐さんがそう思ってくれるならあたしも嬉しいよ」
    「……そう……」
     言葉こそ素っ気ないものの、白岐の顔には微かな笑みが伺える。
    「やっちー、俺のも頼む」
    「了解!」
     気合いを入れて葉佩の分も開ける八千穂を見て、夕薙はふむ、と顎髭を撫でた。彼は皆守の元へ屈み、そっと耳打ちしてくる。
    「甲太郎用にカレー味のラムネでも買ってくるべきだったか?」
    「いらない」
     わいわいと騒ぐ彼らの近くで、海は緩やかに波打っていた。

    「いやー、何だかんだ言って楽しかったなァ」
    「そうか?」
    「良い息抜きになったと思うぞ、俺は」
     その帰り道で葉佩と皆守、夕薙は並んで歩いていた。八千穂と白岐はその前を更に歩いていて、八千穂がしきりに白岐へ話しかけている。白岐も白岐で八千穂と言葉を交わしており、それなりに盛り上がっているように見えた。
    「そういえば夕薙、体調平気だった?
    身体弱いのに誘っちゃったけど」
    「今更それを言うのかよ……」
    「ははは、問題ないさ。それに、具合が悪いならとっくに帰ってる」
    「それもそっか」
     安心して葉佩は胸を撫で下ろす。
     夏の太陽は少しずつ沈みかけており、蝉の鳴き声がこだまする。あと数時間も経てば夜の帳が降りてくる頃合いだ。その時には寮に戻って、明日の準備をしていることだろう。
    「でも夏休み前に行けて良かったね。そんなに混んでなかったし」
    「まァ、人が少なかっただけ過ごしやすくはあったな」
    「全く甲太郎は素直じゃないな」
    「俺は思ったことを口にしただけだ」
     夕薙の言葉に皆守は肩をすくめる。そんな皆守に葉佩は笑顔で提案した。
    「また行こうよ。海」
    「また?」
    「嫌ならプールでも良いし」
    「嫌というか、そもそも夏に出歩くこと自体面倒なんだが」
    「そう言いつつ俺達に付き合ってくれるんだから、ほんと皆守って優しいよね〜」
    「全くだ」
    「あのな、俺はまた行くなんて言ってないぞ」
    「それにしても、夕薙って水着もビキニパンツなんだな。マジで凄えわ」
    「そうかい?」
    「そうだよ! あれは自分の身体に自信が無いと履けないって」
    「別に葉佩も履けばいいじゃないか」
    「え〜〜絶対無理だって〜あんなん」
    「だから話を聞けッ!!」
     賑やかに過ごしていると、夕焼けこやけのチャイムが聞こえてきた。

     宝探し屋の夏は続く。
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