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    墓守の老人と葉佩の話
    時系列は9thと10thの間くらいです。

    #九龍妖魔學園紀
    kowloonDemonAcademy

    年越しもどきSS 窓越しに見える月を忌々しく一瞥して、墓守の老人は小屋で1人、溜息をついた。仕事を終えた彼は小さなテーブルに置いた茶を飲み、からからに乾いた喉をかろうじて湿らせる。
     夏は肝試しがてらに墓地へ侵入する輩が一定数いるものの、12月のこの時期ともなると出入りする生徒は途端に少なくなるようだ。
     しかしそれでも例外はある。
     ガチャ、と扉が開錠される音がした。次いで僅かに軋んだ音を立てて、長身の男が姿を覗かせる。
    「こんばんは」
     堂々と侵入しておいてその挨拶はないだろうと思いながら、老人は彼に視線を走らせた。
     学生服の上にベストを着て妙なゴーグルを付けたその男ーー葉佩九龍は扉を閉めて靴を脱ぎ始めた。手持ちの荷物を床に降ろしてベストを外し、ゴーグルも外せば精悍な顔が現れる。
    「何で来たんだ? って顔してますね。今日の探索終わって夕飯まだ食べてなくて、何かあったかいもん食おうと思って」
    「帰れ」
    「あとトイレも貸してほしくて」
     呆れたが、そこまで言われて貸さないのも気が引けた。
    「…………もう好きにしろ」
    「あざます!」
     お礼らしき言葉を言って、彼はトイレに駆け込んだ。
    (困ったもんだ)
     老人は頭を掻く。こんなところで粗相をされてはたまったものではない。
     程なくして葉佩はトイレから出てきた。勝手知ったると言わんばかりに洗面所で手を洗って備え付けのタオルを使い、こちらに向き直る。心なしかすっきりとした顔つきだ。
    「あざました」
    「そのまま帰ってくれないか」
    「飯食ったら戻りますよ」
     困惑するこちらに構わず、葉佩は荷物から何やら取り出した。
    (……蕎麦と……めんつゆ?)
     既に葉佩はガスコンロに置かれた鍋で湯を沸かし、準備に入っている。行動が素早かった。茹でられた蕎麦をいつの間にか出された器に盛り、目分量でめんつゆが投入されていく。テーブルにそれを置いて、葉佩は老人の向かいにある椅子に腰掛けた。
    「いただきます」
     そのまま蕎麦を啜り始めた彼をぼんやり眺めていると、彼がこちらを見やる。
    「食べます?」
    「いらん」
    「そっすか」
     持参していたミネラルウォーターを飲んで、葉佩は一息ついた。
    「……ほんとは天香で年越ししたいんですけど、多分無理そうなんで。せめて年越し蕎麦くらいは……と思ったんです」
     声音こそ残念そうだが、《秘宝》を諦めた訳ではない。本格的に墓が暴かれる、その時が来ているという意味の言葉だった。
    「あ。まァ、お爺ちゃんにこんなこと言うのもアレですね」
    「本当にな」
     墓守としての役割を名義上担っている身としては、勿論良いことではない。
     それでも老人は、目の前にいるこの男を、もう止める気にはなれなかった。
    「……最近つるんでる同級生が居てですね。そいつ、オカルト全然駄目なんですよ」
    「ほう」
     ラベンダーを燻らす男のことだろうか。老人の予想に反して、葉佩の言葉は意表を突くものだった。
    「駄目っていうか、存在そのものを許してないというか。憎んでるみたいで……そういう話してる時のそいつ、苦しそうに見えてね」
    「……そうか」
    「何か……烏滸がましいけど、俺に出来ることがあれば良いのになーって」
     彼の呟きを何となく聞き流し、老人は無言でカップに口を付けた。葉佩は喋り続ける。
    「そいつね、この前は朝ごはん食べてなかったからビフテキあげたんですよ。好物みたいで。これから何か作ってあげた方がいいのかなァ……毎日ビフテキは無理だから、せめて納豆ごはんとか」
    「いらないだろう」
    「え?」
     意見されると思っていなかったのか、葉佩は目を丸くしていた。小さく咳払いをして、老人は言葉を重ねる。
    「お前が用意することはない」
    「でも」
    「……そういうのは気持ちだけで十分だ」
    「そんなもんですかね」
    「そんなもんだ」
    「じゃ、そういうことにしておきます」
     蕎麦を完食した葉佩は腰を上げた。食器を流しに置いて準備を整えると、彼は玄関へ向かう。
    「今年はお世話になりました。そば湯、まだ鍋に残ってますんで良ければどうぞ」
     まだクリスマスも過ぎていないのに、随分気の早い挨拶だ。こちらの返事を待たずに彼は姿を消した。          
     やれやれと思いながら、老人はカップを持って台所へ足を運ぶ。小鍋に残されたそば湯をカップに注ぎ、老人は一口啜る。
    (……本当に、お節介な奴だ)
    既にぬるくなっていたが、それでも老人の心を温めるには十分だった。

     その後、墓守小屋は何度かトイレスポットとして葉佩達に利用されることになり、老人は頭を抱えることになる。
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