【負け確定の追いかけっこ】タイトル【負け確定の追いかけっこ】
あらすじ『飲み会の翌日「カップル成立おめでとうございます!」と言われたサは「記憶が無いから全部忘れてください!」と半に頼みこむのだが――。』半サギョ健全ハピエン
診断メーカーさんのお題をお借りしています!
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https://shindanmaker.com/606128
『こんな書き出しで書いてみて』
城見もへじの半サギョで「ぜんぶ知ってるよ。」から始まる小説はどうですか?
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「全部知っているのだ。」
言いにくそうに口を開いた半田に、サギョウは首を傾げた。
「何をです?」
半田にそう言わせる何かがあっただろうか。直近の出来事と言えば昨日の吸対の飲み会だが――。
「僕、酔っぱらって何か変なこと言ってましたか。」
「変な…ことではないぞ、胸を張れ!」
急に拳を握って力説され、サギョウは大音量から耳を守った。
「なんなんですか、もー。なんです、結局何が言いたいんです?」
「それは、だな――…。」
頬を染めて途端にもじもじしだした半田に、サギョウの背を冷たい汗がつたった。
(まさか。いや、そんなはずは――。)
その時、ガチャリ、と扉が開いてヒヨシが入って来た。
「あ、隊長おはようございます。」
「おお、おはようサギョウ、半田。二人とも早いのう。」
困ったように眉を寄せる半田を横目に、サギョウは隊長に話し掛けてさっきまでの会話を有耶無耶にすることにした。
バン!と扉が開いて、カンタロウが出勤してきた。
「おはようございますであります!」
二人目のハリケーンの登場に(これで完全に誤魔化せた。)と、サギョウが思った時だった。
「お二人共、昨日はカップル成立おめでとうございました!」
「――は?」
「サギョウ殿の想い、聞いていて胸が熱くなりました!」
「はぁ!?」
ギ、ギ、と音が立ちそうなほどぎこちなく半田の方を振り向くと、真っ赤な顔の半田と目が合った。
「何言ったんですか、僕!いや、何も言わなくていいです。酔っ払いの言ったことですから!全部酒のせいですからね!」
全部なしです忘れてください!と叫ぶと、サギョウは部屋を飛び出した。
サギョウは半田が好きだ。職場の先輩後輩としてでなく、恋愛感情で。
強く優秀なイケメンダンピールと何もかも凡人の自分とでは、半田の奇行諸々を差し引いたとしても釣り合わないのは明白で、サギョウは想いを自覚して早々に諦めることにした。
だが、恋と言うのは恐ろしいもので、サギョウが諦める方針を固めたにも関わらず、思い掛けないときめきや未知の感情でサギョウを翻弄した。
それは思わずゴビー相手に恋バナや、偶然出会ったドラルクに知り合いの話という体で相談をしてしまう程に厄介だった。
一人では抱えきれない想いを、酔っ払ってうっかり本人に吐露してしまった可能性にサギョウは大層動揺した。
「何言ったんだ僕…!しかも、みんなの前でってことだよな?うわあああ……!」
人気のないロッカー室でサギョウは頭を抱えた。
「カップル成立なんてからかわれて。そんなはずないのにな~…。」
はあああ~、と深いため息を吐くとサギョウはさっきの半田の様子を思い返した。
「半田先輩に嫌な顔されないだけましか。先輩、ああいうからかわれ方に耐性ないんだろうな。顔赤かったしなあ。」
照れてる顔可愛かったな。と、ふわりとサギョウの口元が緩む。
その次の瞬間、口を引き結ぶとサギョウは先行きを決めた。
「戻ったか、サギョウ!」
扉を開けると、半田がガタン、とデスクから立ち上がった。
「さっきはお騒がせしました、すみません。」
努めて落ち着いた声で謝ると、半田は首を振った。
「構わん。だが、その――。」
何かを言おうとした半田を、サギョウはやんわりと遮った。
「僕、昨日の飲み会の時の記憶がほぼなくて。何を言ったのか分かりませんけど、聞かなかったことにしていただけたら嬉しいです。」
「――そうか…いや、お前が覚えていないことではあるしな…。」
考え込む表情の半田が次の言葉を口にする前に、サギョウは畳みかけた。
「ありがとうございます。パトロール行きますか。」
「あ、ああ。そうだな。」
見慣れた街の中に異常がないか注意して歩きながら、チラチラと送られる視線にサギョウは気付いていた。半田である。
(聞きたいことがあるって丸わかりな顔してるなあ。)
やや強引に無かったことにした自覚はサギョウにもある。とはいえ、絶対に半田への想いを認める訳にはいかないのだ。――これからも今の距離で半田の傍にいるために。
好きだと言わなければ、振られることもないのだから。
視線に気付かないふりをして、サギョウはパトロールに集中している体を装った。
「そろそろ休憩を入れるか。」
「そうですね。」
そこで待っていろ、と半田が離れると、サギョウは詰めていた息を吐いた。こう訊かれたらこう答えよう、と用意をし続けて頭が痛くなりそうだ。
眉間を揉むと、いつの間にか戻ってきていた半田が、ほら、と何かを差し出した。
「あ、ブァンタだ。」
好物に思わず声をあげると半田が頷いた。
「好きだっただろう、奢りだ。」
「いいんですか?頂きます。」
口をつけると、しゅわりと炭酸の泡が弾けた。気分を上向かせて顔を上げると、嬉しそうな顔でこちらを見ている半田と目が合った。
その瞬間、とくりと心臓が鳴る。
(なんで、そんな嬉しそうに。)
サギョウは下を向いた。
(こういう可愛がり方されると、どんな顔していいか分からなくなる。)
何か訊かれるものと思っていたが、半田は何もたずねてはこず、サギョウは黙って飲み物を味わった。
「そろそろ行くか。」
そう言って立ち上がった半田の横顔がどこかいつもと違っているように見え、サギョウは首を傾げた。
「はー、ようやく終わりましたね…。」
「ああ、おかしな吸血鬼に三連続ででくわすとはな。」
大きく息を吐いたサギョウに、半田もいささか疲れた顔で頷いた。
一件目は顔なじみの吸血鬼が悪気なくやらかしていたので、穏便に捕まえてVRC送りに。
二件目は、他所からやってきた敵性吸血鬼との退治人もまじえた戦闘。
もう無いだろうと思っていたらだめ押しの三件目に、辻占い師を装った吸血鬼の吸血現場に行き合って現行犯逮捕。
明け方近くになって、二人はようやく署に戻ることができた。
(大変だったけど、そのお陰でいつも通りでいられたな。)
制服を着替えようとロッカーを開けた時、ふいに肩に重みが掛かった。
「頑張ったなサギョウ!適切な避難誘導もだが、接近戦で敵を捕縛場所まで誘導するのにも慣れてきたのではないか?」
肩を組まれ、そのまま頭をわしゃわしゃと撫でられる。
途端にサギョウの頬に熱が集まった。
(まずい、先輩に気取られる前に先輩のことそういう意味で好きじゃないってなんとか態度で示さないと。)
サギョウは、頭を撫でてくる手を払いのけた。
「どうしたサギョウ?」
きっ、とできるだけ強い視線で半田を見上げてサギョウは拒絶の意を示そうとした。
「近いです。僕にもパーソナルスペースってものがあるんですよ。」
「いやか?」
半田に問われ、サギョウは答えに窮した。
好きな人が近い距離で接してくるのが、嬉しくないわけがない。だが、恋愛感情などないと主張したいならここは適切な距離を取って欲しいと言うべきだ。
「――…いやでは、ないですけど…。」
だというのに、サギョウの口から出たのは、半田が触れるのを許容する言葉だった。
睨んでいた目も伏してしまっている。
何か言わなければ、と言葉を探して探り当てる前に、ぎゅうと抱き締められた。
「なっ…!何して――。」
確かに感じる温もりに、サギョウは混乱する。
「もう認めたらよくないか。」
「何をです!?」
慌てるサギョウに、半田は今日最初の言葉を繰り返した。
「全部知っているのだ。言っただろう。」
「僕は覚えてないのでノーカウントです!」
そう叫ぶと、サギョウは鞄とゴビーを持ってロッカー室を飛び出した。
一体、何故。半田はサギョウを抱き締めるなどしたのだろう。
「……何言ったんだよ、僕。」
家に着くと、サギョウはずるずると玄関にへたり込んだ。
「……そうだ!」
ヒヨシ隊で一番酒に強いルリなら一部始終を見ていて顛末を教えてくれるかもしれない、そう思いつくとサギョウはRINEを起動した。
『遅くにすみません。ルリさん、昨日の飲み会で僕が半田先輩に告白したっていう現場って、見てましたか?』
『お疲れさま。サギョウ君が泣きながら半田君に絡んで、半田君が突然「これでカップル成立だ!」って言ったのは聞こえたよ。』
『ええ…内容って覚えてますか。』
『うーん、あれは本人の受け取り方次第だったと思うけど。』
『半田君に聞いてみるのがいいんじゃないかな?』
そこまでやりとりすると、サギョウはルリに礼を言って会話を終わらせた。
「結局、半田先輩にきくしかないのか……。」
サギョウは、はあ、と深いため息を吐いた。
翌日、サギョウは仕事上がりに半田を誘った。どこで話をするか迷ったが、人に聞かれたくない話になることが分かっていたので苦渋の決断で自室を選んだ。
二つ返事で了承した半田に手料理を振る舞われることになり、どの料理にも姿を現すセロリに辟易しながらも、なんだかんだと楽しく食卓を囲んだその後のこと。
サギョウは緊張した面持ちで、半田にたずねた。
「飲み会の日、僕は先輩になんて言ったんですか?」
半田は腕組みをすると、ふむ、と考えながら答えた。
「俺のことを『ずっと追い掛けている』と言っていたぞ!」
ぽっと頬を染めた半田の返事に、サギョウはくらりと眩暈がした。想いを自覚すると同時に諦めて、ひた隠しにして来たというのに酒に溺れて暴露していたなんて。
今のまま、傍にいられたら他には望まないというのに、それすら叶わなくなるのではないか。
不安に陥るサギョウに、半田は言葉を続けた。
「『先輩のことずっと追い掛けてます。早く追い付いて半田先輩に認められたい――、ほんのちょっぴりですけど尊敬してるので。』だったな。」
「……それ、告白とはちょっと違いません?」
サギョウがぱちぱちと目を瞬いて言うと、半田は虚を突かれた顔で、
「…告白ではないのか?」
と呟き、しょんぼりと肩を落とした。
(あれ?なんで半田先輩はそんなにがっかりするんだ?)
告白ではなかったことの安堵と、消沈した半田の様子への疑問をサギョウが覚えていると、半田がどこか拗ねた様子で言った。
「お前は、そんなに俺のことが好きじゃないと主張したいのか。」
「好きは好きですけど――。」
ようやく自分のペースを取り戻し、誤解を解こうとしたサギョウに、半田は新たな爆弾を落とした。
「なぜだ、俺の返事がOKだと確定していてもか。」
「――え?」
OKって何が?と混乱するサギョウに半田は畳みかけた。
「俺への告白を覚えていないというお前に、もう一度好きと言って貰いたい俺はお前のときめきポイントを実践することにした。」
「は?」
(ときめきポイントってなんだ、いや――その単語、聞いたことがあるような?)
サギョウが想いを巡らせる前に、半田は言葉を続けた。
「お前の好きな飲み物を差し入れ作戦は成功したが、サギョウの反応が可愛くてどうしていいか分からず、ほわほわした空気になって終わってしまった。」
今日の休憩時間のことを言っているのだ、と遅れて気づくが内容が頭に入ってこない。
「次こそは惚れ直してもらう!という意気込みでスキンシップをはかったら、拒否しておきながら耳を赤くして目を伏せるなど心配になるレベルの可愛い反応をされ、もう諦めて認めてほしいと思わず抱き締めてしまった。先輩のことなんて好きじゃありません、という顔をしようとしてできないのが愛しい。」
内心を見透かされ、サギョウは羞恥で真っ赤になった。
「アンタ何言って…!なんで、僕が半田先輩のこと好きなんだって思ってるんです?」
往生際悪く問うと、半田はスッと目を逸らし歯切れ悪く言った。
「それは…知ってるからだ。」
「だから、なんで。」
「俺が盗聴しているところに、お前がノコノコ来てドラルクに恋愛相談などするから――!」
バツの悪そうな顔をした半田が叫んだ瞬間、サギョウは全てを理解した。
「聞いてたんですか!?最低じゃないですかこのロナルドおじさんシンヨコの奇行師!」
「あいつの名前を出すな!わざとではなかったのだ、聞くのをやめようかとも思った。だが、俺の名前が出たので気になって全部聞いてしまった。」
「うわああああ!それじゃ僕、最初っからバレてたのに馬鹿みたいじゃないですか!」
己の行動の数々を思い返し、サギョウは今すぐ窓から飛び出したい気持ちに駆られた。好きだと最初からバレていたのなら、あれもこれもただのツンデレのような何かだ。
「いや、耳を赤くしながら俺のことなど好きじゃないフリをしようとするお前はとても可愛かったぞ!」
「嬉しくないです!コンチクショウ!」
真面目な顔で褒めてくる半田に、サギョウはヤケクソ気味に叫び返した。
「そう言うと思ってなかなか言い出せなかったのだ。お前の告白を受けて、今日全部知っているのだと告げようと思ったがお前の記憶がなかったので、ひとまず保留にしたんだが――怒っているか?」
「怒ってますよ!」
サギョウは間髪入れずに返す。
「では、その償いをさせてくれ。そして、お前の気持ちに余裕ができたら俺とのことを考えて欲しい。」
すまなかった、と頭を下げると、半田は真摯な瞳でサギョウを見詰めた。急に静かになった半田に毒気を抜かれてサギョウは、ぱちぱちと目を瞬いた。
「――先輩は、僕のこといつ好きになったんですか?」
「お前の恋愛相談を聞いた時だな。お前に好きな人がいる、と聞いてモヤモヤした心が相手が俺と知って舞い上がった。その時に、お前をかわいがりたいこの気持ちが恋だと分かったのだ。」
そういえば、最初から分かりやすく距離が近かったな…と思い当たり、ようやく好かれている実感が湧いてサギョウは顔を赤くした。
「お前の気持ちを盗み聞きした詫びに、俺に出来ることであればなんでも――。」
重ねて言おうとする半田の手を握ってサギョウは言葉を遮った。
「償いじゃなくて、先輩の気持ちをもっと聞きたいです。」
ぽかん、と口を開けた後、半田は輝くような笑顔を浮かべた。
サギョウの望みを正しく理解した半田はサギョウへの正直な気持ちを存分に吐露し、赤くなったり青くなったりしながら聞いていたサギョウは、その日の内に半田の腕の中に納まることになった。
こうして、二人はようやく気持ちを通じ合わせることが出来たのだった。
end
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>記憶をすっ飛ばすネタが好きです。