○○しないと出られない部屋【半サギョ】【パターン1】
半→無自覚
サ→無自覚
「なんですか、ここ。」
急に現れた四角い空間に、サギョウは訝し気な声をあげた。
「ふむ、海の家が吸血鬼化した事例は聞いているが……、ここもワンルームが吸血鬼化した類かもしれんな。」
半田が辺りを警戒しながらそう言うと、ピンポーン!と軽快な音が鳴った。
「なんだいまのは。」
「正解、とか?」
音のした方に揃って顔を向けると、そこには細長い電光掲示板があった。
「〇〇しないと出られない部屋?」
「脱出ゲームみたいなもんでしょうか。何をさせたいんでしょうね?」
サギョウは首を傾げた。そのお題を部屋の中から探せ、ということなのだろうか。と、考え込んでいると場違いに軽快なドラムロールが鳴った。
ジャカジャカジャカジャカ……ジャン!
音ともに電光掲示板の文字がぱっと切り替わった。
『相手の嫌い/苦手/好きなところを3個言わないと出られない部屋(どれを選択したか宣言してから発言してください)』
「ふむ……、大して害はなさそうだが。」
「僕たちがお互いに対して思ってることを言え、ってことですよね。」
半田は剣に手を掛けた。
「俺が警戒をしておく、サギョウ、指示の通りにしてみてくれ。」
「わかりました。」
サギョウは、もう一度電光掲示板に目を通し、片手を軽く上げて宣言した。
「先輩のコノヤロウと思ってる苦手なところなんですけど休日の呼び出しとスキンシップ過多と巻き込んでおきながら面倒を見てやってるという態度苦手です。」
「そうだったのか!?」
ワンブレスで言い切ったサギョウに、半田が驚愕の声をあげた。
ブー、と音がして、電光掲示板には△がみっつ表示された。
「あれ?だめですか?」
「コノヤロウというオリジナリティが駄目だったのではないか?」
「じゃあ、さっきのは普通に苦手なところで。」
ブー、と△がみっつ表示された。
「ふむ、カテゴリが間違っているということだろうか。」
「嫌いなとこです。」
ぐっ、と傍らの半田がショックを受けた顔をしたのに構わず、サギョウは電光掲示板を見上げた。
ブー、と△がみっつ表示された。
「ええ…?じゃあ、好きなところになるんですか?休日の呼び出しと、スキンシップ過多と、巻き込んでおきながら面倒を見てやってるという態度苦手ですけど……、まあ、嫌いじゃない、かもしれませんね。」
サギョウが首を捻りながら答えを絞り出すと、ピンポーン、と〇がみっつ表示された。
「そうか。」
ほっとしたように笑みを浮かべた半田に、サギョウは口を尖らせた。全くの不本意だったからである。
「嫌いじゃないってくらいで、好きなわけじゃ――、好きなわけが――、…え?」
あれ?とサギョウは自分の心の中にある何かに気付いて、目を見開いた。
「扉が開いているぞ!……サギョウ?どうした。」
顔を覗き込まれ、サギョウはぶわっと頬を赤くした。
「なんでもないです!」
(おかしな扉が開いてしまった、ああ、なんて余計なことをしてくれたんだ!)
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【パターン2】
半→無自覚
サ→自覚
「なんでしょう、ここ。」
急に現れた四角い空間を見回しながら、サギョウは首を傾げた。
「ふむ、最近○○しなければ出られない部屋という吸血鬼が民間人を閉じ込めた事件があったな。」
その吸血鬼の起こすという現象に近い。と、説明する半田にサギョウは頷く。
「じゃあ、この部屋捕まえないといけないですね。」
「ああ。だが、まずは出るのが先だな。」
ピン、ポン、パン、ポーン、と音がした方を見上げると、大きな電光掲示板が壁に貼り付いていた。
『相手の嫌い/苦手/好きなところを3個言わないと出られない部屋(どれを選択したか宣言してから発言してください)』
「これ、僕たちがお互いに対して思ってること、ってことですよね。」
どこか困った風のサギョウには気付かず、半田は剣に手を掛けたまま前に進み出た。
「俺がやってみよう。サギョウの好きなところだ。セロリ色の髪の毛が素晴らしい、案外負けず嫌いで努力家なところもいいな、呼び出せばなんだかんだと文句を言いながらも毎回律儀に付き合ってくれるところが好きだ。」
半田が言い終えると、ピンポーンと音がして、電光掲示板に〇がみっつ表示された。
「つぎ、頼んだぞ。」
「あっ、ハイ。」
赤くなった頬を隠すように前に進み出たものの、サギョウは内心困っていた。サギョウは半田が好きだ。
だが、気付かれたくない。
半田なりに面倒をみて可愛がってくれているのは分かっているが、告白して勝算のある間柄ではない。確実に一歩進める手立てを見出すまでは気付かれるのは得策ではないのだ。
「半田先輩の苦手なところなんですけど。スキンシップ過多と休日の呼び出しと面倒を見てやってるという態度……、ですかね。」
好きなところなら、みっつと言わず言える気がしたが、今は苦手と言えるところでサギョウはお茶を濁そうとした。
だが、無情にもブー、という音がして電光掲示板には×がみっつ表示された。
いくつか絞り出してみたものの、どれも結果は×だった。
「少し休もう。」
半田の提案を受けて、部屋の隅で交代で座って休憩を取った。部屋の様子に変わったところはないが、体感にして一時間近く経過している。
(困ったな。気付かれたくないとか、わがまま言ってる場合じゃないのかな。好きなとこ以外で出る方法は――。)
サギョウが膝を抱えていると、半田が辺りを警戒しながら声を掛けてきた。
「サギョウ、休めるときにしっかりと休んでおけ。」
考えすぎも、毒だ。そう気遣われ、サギョウはより一層部屋を出られていないことに責任を感じた。
「すみません、足引っ張っちゃって。」
消沈するサギョウに、半田は首を横に振った。
「何を言う、俺はお前と一緒で良かったと思っているぞ!いつでも背中を任せられる頼もしい後輩だ。」
「…!」
元気づけるためなのだろうが、それでもサギョウにはこの上もなく嬉しい言葉だった。だから、思わず本心が口をついて出てしまった。
「さっきこの部屋に向かって言ったこと。……本当は全部、半田先輩の好きなところです。」
半田はぱちぱちと目を瞬いたあと、輝くような笑顔をうかべ、サギョウは思わず見惚れた。
「サギョウ――。」
半田が何かを言おうと口を開いたその時ガチャリ、と鍵の開く音がした。
「あ……。開きましたね。」
「ああ、出るか。」
二人が外に出た途端、走って逃げようとする部屋を捕まえてVRC送りにすると、サギョウはほっと息を吐いた。
日常に戻ってきて思い浮かぶのは、さっき目に焼きつけた半田の輝くような笑顔だ。
(さっきの先輩、何を言おうとしていたんだろう。)
聞きたかったな、という未練を打ち消してサギョウは仕事に意識を戻した。
いつの間にか隣に立っていた半田に気付いて顔を上げると、半田が片手でサギョウの肩を引き寄せた。
「――つづきは、後で言わせてくれ。」
耳打ちして去っていく半田の尖った耳が僅かに赤い。
「え……!?」
期待でいっぱいになった胸で弾む心臓を抑えながら、サギョウは半田の後を追い掛けた。
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【パターン3】
半→自覚
サ→自覚
「セロリ色の髪の毛が素晴らしい、案外負けず嫌いで努力家なところもいいな、呼び出せばなんだかんだと文句を言いながらも毎回律儀に付き合ってくれるところが可愛いく思える……好きなところだ。」
顔を真っ赤にして照れながらそう口にする半田先輩と僕サギョウは告白の真っ最中――というわけではなく、○○しないと出られない部屋に閉じ込められています。
『相手の嫌い/苦手/好きなところを3個言わないと出られない部屋(どれを選択したか宣言してから発言してください)』
のお題の中から、迷わず好きなところを選んだ半田先輩は、好意を伝えようという心算だけじゃなく、多分、どんな時でも相手の好きなところ以外を選ばないんじゃないかな、という気もする。
(あわよくば、はあるんだろうけど。)
そう感じる程度には、日常的に先輩からの好意はあからさまだった。多分、ちらちらと告白の機会を伺ってるのが分かるくらいに。
「サギョウ、つぎ頼む。」
耳まで赤くしている先輩を見て、可愛いな、という想いが胸を温める。僕も半田先輩のことが好きだ。
「ええと……。」
半田先輩に続こうとして、言葉が途切れる。
好きだけれども、半田先輩と恋仲になってはたして大丈夫なのかな!?と踏みとどまる理性という名のいいわけをまだしてる段階なのだ。
ロナルドさんでいっぱいの部屋にはドン引きするけど慣れはした。あけみさんへのマザコンっぷりはまあ家族を大事にしてると言えなくもない。だが、その中に自分が入っていけるかと言ったら――どうなんだろう?
執着されないのも寂しいが、執着され過ぎてもついていける自信はない。
それでいて純情っぷりも極めている先輩のことだから、ふつうのお付き合いなんてものができるとも思えない。
平たく言うと何が起こるか分からないから、軽い気持ちで付き合うことなどできないのだ。
でも、嫌われたいわけではない。
好きは好きなので、――困ったな、何を言えばいいんだろう?
言葉を探しあぐねていると、半田先輩がしょんぼりしながら言った。
「……嫌いなところでもいいんだぞ?」
「じゃあ苦手なところなんですけど…気軽にスキンシップしてくるところとか、急な呼び出しとか、面倒を見てくれるつもりで構ってくるところとか……。」
嫌っていると思われたくなくて、急いで口にした言葉に先輩は、ガーン、とショックを受けた顔をした。
「そういうところ……まあ、嫌いなわけじゃ、ないんですけど。」
負けた。と、思いながらフォローすると、先輩が目を輝かせた。
「それは、好きということか?」
「そうなり……ますね。」
サギョウ!と飛びついてくる先輩に、僕は往生際悪く言い募った。
「いや!全面的に好きってわけじゃないです!困るなって思う時もあるんです。困るのと五分五分くらいです。」
「困らせるのはどんな時なのだ?」
「え?」
虚を突かれて僕はぱちぱちと目を瞬いた。
「控えるべき時があるなら、控えるように心がけよう。教えてくれ。」
「困る、のは――。」
(触れられるとどきどきしてどんな顔していいか分からないから、とか。)
無自覚だった部分を急に自覚して、僕は首を横に振った。顔が熱い。
「……言えません。」
赤くなった顔を隠すために下を向くと、先輩がそっと手を握ってきた。
びくっとして顔をあげると、同じくらい真っ赤な顔の半田先輩と目が合った。
「俺は、お前のことが好きだサギョウ。お前にも、恋愛対象として俺を好きになって貰いたい。」
真っ向から告白されて、僕はもう逃げられないのだと悟った。
「……わかりました。」
蚊の鳴くような声で返事をすると、先輩が掴んだ両手に力をこめた。
「いいのか、サギョウ!」
「僕、わかりましたとしか言ってませんよね!?」
(まだ、本当のこと何も言ってないのに。)
もし受け入れる覚悟ができたなら、伝えたいことはたくさんあるのだ。自分がそれを素直に口にできるかは別として。
「今のは了承だっただろう、それとも違うのか…?」
しゅんとした顔をする先輩に、僕は、ぐ、と言葉に詰まった。
「……認めたくないですけど、違わないです。」
しまったなあ、と思いながらも僕は半田先輩の腕に抱き締められて胸が高鳴るままに身を任せたのだった。
そうして、覚悟ができる前に付き合ったばかりに、大変な目に合って僕が阿鼻叫喚したのはまた別のお話。
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