ワシは猫や ワシは猫なり。名前は…、何やったっけな。ああ、そうや、一緒に住んでやっとった口の悪いババアは「けーご」やら呼んどったな。ワシ、猫やし、何のことかよう分からんかったけど。…っちゅーか、軽々しく触るなや。ワシ、触られんのんイヤやねん! 匂い移るやん!! ホンマ触ら…、って、ちょちょちょちょちょー待てて!! 何で引っくり返すねん!!エエ加減に……、ってもーー! ホンマ何すんねん!!もう、イヤや……。そんなとこ見んでよ……。何で急所さらけ出せなアカンねん……。デリカシー無さ過ぎやろ……。ワシ、もうエエ歳やのに。恥辱、極まりなしや……。
「傑、コイツ男だ」
ワシの身体を弄びやがって。何がオモロイねん。クソガキが。頭の綿毛、全部毟るぞコラ。男なことぐらい、そんな足グィーーーやらんでも分かるやろうが。はよ、離せやボケカス。
「あ、ホントだ。金玉あるね」
何、エエ声で「金玉あるね」や。せやから、はよ離せえ言うとんねん!!お前のその垂れ下がったワカメみたいなソレ、しゃぶってしゃぶってしゃぶり倒すぞ。
「金玉ってフグリって言うの知ってた?」
知るかぁボケ。
「へぇー、そうなんだ」
棒読みぃぃぃ。心底、クソどうでもいいんやな…。ワシもどうでもいいわ。
「なあなあ。見てみ。この額の柄、お前の前髪みたいじゃね?」
ホンマ、このクソガキっ! 急に首の後ろ掴んで持ち上げるなやぁ!!! 皮膚、伸びるやろうが。ジジイやから元、戻るん遅いねんから! 多分、感覚的にやけど。おおおお……、苦じぃ。首、締まる。自分の体重で首締まるぅ。ダイエットせなアカンけど、その前に死ぬぅ。ッォワッ、近い近い、顔近い! ワカメ、近い! あ、エエ匂いする。あ、アカン。勝手に鼻ひくひくしてもうた。あ、うん。でもエエ匂いやな。ワカメのくせに磯臭ないなんて、どないやねん。
「まあそう言えなくもないか。でも目は悟みたいじゃない?」
やん。そない優しくせんで、惚れてまうから。あー、暖かいわぁ。あと、このすっぽり感何? メッチャ安定すんねんけど。包まれとるぅ。ワカメの腕ん中フィットするぅ。ワカメ、ワシの抱き方知っとるな。あぁ、そこ撫でんのん。マジかぁ。気持ちエエってぇ。もっと撫でて。お願いやから。後生やから!! ってギャー!! 痛い痛い痛い。頭を掴んで目ぇひん剥くな、綿毛ーー!!
「あ、ホントだ。青い」
「ハチワレで青って珍しいよね」
そう、そこそこ。顎や、顎とエラや。そこを擦れ、ワカメ。き、も、ち、エエーー。テクニシャンやな、ワカメ。あんっ。それ、指圧か。指圧なんか。指立てて、さすさすされんのんヤバいて。ぁぁぁぁ。ヤバい声出るぅ。口悪ババアが読んでた腐ったエロ同人みたいな声出るぅぅ。濁点喘ぎ出るぅぅ。
「すんげぇ声出すな、コイツ」
「声っていうか喉が鳴ってるんじゃない?」
そうや、ワカメの言う通りや。これは決して喘いでるんとちゃう。喉が鳴ってるだけやぁ…、。そこ、たまらん♡ もっと、もっとワシのエエところ、擦ってぇ♡ トロトロになっちゃうよぉぉ♡
「いや、きめぇってコイツ。傑に撫でられてチンコ、デカくしてんじゃん…。お前に発情してんじゃねぇの」
してへんわっ!! してへんはずや!! ワシかて認めたないわ! こんなワカメ相手に勃つとか信じられへん! いやウソメチャ気持ちいいから抱いて。いやワシが抱くから。
「……おっぱい、ふみふみされてんぞ?」
「いや前足だし発情期じゃなくて愛情表現じゃないかな? 発情期なら後足でふみふみするし腰も振るからね」
そうや、これは愛情表現や。撫でてくれてありがとうっちゅーことや。決して、抱っこされてるから後足が使えんくて前足を使ったわけちゃうで。断じてちゃうで!!! ゴメン、ウソ。腰振りたい。振りたいのにワカメが尻んとこがっつりホールドして動けんだけやし。生殺しや。しゃーないから、ワシのメスのおっぱいふみふみしとこ。………、なんや文句あんのか綿毛。何、ガンたれとんねん。ワカメのおっぱいはワシのんや。はよ、どっか行けボケカス。
「コイツ、俺のこと睨んでんだけど」
「首輪してるし野良ってわけじゃないと思うんだけど。でも確かに目付きは悪いけどカワイイよ。ねぇ猫ちゃん、どこから来たの?」
ほわぁぁぁ。何、その顔。カワイイんは自分や。あぁかわええ。かわええ以外の言葉はこの世に存在せん。はうぅ。はにかんでからに! これが流行りのハニカミ王子か! 遼くんなんか!!! いや本家なんか足元に及ばんハニカミLOVE笑顔や。ワシのメス改めワシの嫁にしたる。しかし猫ちゃんて。ワシ、もう十歳越えとるで。ヒト年齢にしたら赤いちゃんちゃんこ着た還暦ジジイやで!! ヤバい。ワシの嫁がカワイイ件について語りたい。メッッッチャ、メッッッッサ語りたい。イッタァ!! 痛いんじゃワレ!! 何しくさってくれよんねん、ゴラァ綿毛ぇぇ!!! って、何でパンチが当たらんのや!!!
「ムカつく。マジでムカつく。ぜってぇ、傑のこと、変な目で見てるぞコイツ」
「バカか。そんなわけないだろ? 早く降ろしてやりなよ。そんな持ち方したら、腰脱臼しちゃうだろ」
ワシの嫁の言う通りや。はよ降ろせや綿毛。はぁーー、やっと腰こすこす出来る。嫁の足をふみふみして、尻尾立てて、腰をこすこすこすこすこすこす。マーキングしとかんとな、ワシの嫁、可愛い過ぎるからな。ってオイィィィィ、綿毛ぇぇぇぇ!!!!だから、その持ち方やめぇぇぇ!!!!首、ぐびがじまるぅ。ンギャーーー!!!急にほっぽり出すなや、ボケェ!!!!死ぬか思ったやろがい!!!!……ヒッ!!
「お前、いい気になんなよ。傑はお前のモンじゃねぇんだよ。……よく見とけ、色ボケジジイが」
綿毛の目が据わっとる。怖い。人間、怖い。って、あぁぁぁ………。ワシの、ワシの嫁が綿毛に口吸いされとるぅぅぅ。ワシの、ワシの嫁がぁぁぁ。ワシの目の前で寝盗られとるぅぅぅぅぅ。口悪ババアが一番好きなNTRシチュが眼前で繰り広げられとるやんけぇぇぇぇぇぇぇ。やめろぉ、やめろよぉぉぉぉぉぉぉぉ。何でパンチも当たらへんし、噛みつかれへんねん!!! ワシの嫁〜!!!!
「ナーーーーン」
クソ猫の声をきっかけに、傑が俺の顔をアイアンクローして、折角キスをしていたのに引き剥がしてきた。
「痛いって。何で剥がすんだよ」
「外ではやるなって言ってんだろうが」
真顔で叱られた。少しぐらい紅くなるとか、可愛らしい反応をしてくれてもいいんじゃないかと思ったが、柄じゃないなと思い直した。
「マーキングだよ」
「私は悟の所有物じゃない」
「所有物なんて思ってねぇよ。お前、そんなタマじゃねーし。でも、変なヤツが寄って来ねぇようにマーキングするぐらいは許せよ」
はぁ。傑は特大なため息を吐くと、眉間を親指で掻いている。困った時やアイスブレイクの時のクセだ。
「って、オイ!」
いきなり後頭部を掴まれて、傑がキスをしてきた。さっきの俺よりも激しく、喰らいつくようなキスだ。傑はその肉厚な舌で唇をべろりとひと舐めすると顔を離した。
「情熱的」
「キスしたいならマーキングとか理由を付けずにしたいって言えよ」
「言ったらやらしてくれんの?」
「場所を選べよバカって返す」
「はぁ!? お前も今、外で俺にやったじゃん! 何で駄目なんだよ」
「今のはやられたからやり返しただけ。悟が仕掛けてこなきゃやらなかった」
何でもかんでも俺のせいにしやがって。思わず下唇を突き出して拗ねると、もう一度、今度は軽く触れるだけのキスをしてくれた。
「猫に妬くなんて、悟も可愛いところがあるんだねぇ」
「うるせぇよ。黙って俺に溺愛されとけ」
「イヤだね。黙ってたら愛を囁やけないだろう? 悟の方こそ黙って私に溺愛されとけば」
もうそれって二人で愛という泥濘にズブズブじゃないか。しかも黙っていられないから二人してうるさいし。
「さ、帰ろう。身体、冷えてきた。じゃあね、猫ちゃん。ちゃんと家に帰るんだよ」
傑は猫の頭をひと撫ですると、首輪のネームタグを見ている。
「名前書いてんの?」
「跡部景吾」
「猫のクセに立派な名前だな」
もう一度、猫を撫でると「バイバイ。景吾くん」と話しかけて、傑は立ち上がり歩き出した。俺もその横に並ぶように歩く。腕が触れ合うほどの距離。傑の体温を感じると嬉しくて、にやけてしまった。