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    オロイフワンライ
    9/20 お題『月』『お茶会』お借りしました。
    遅刻、+4hです。
    お月見オロイフカク🎑

    #オロイフワンドロワンライ
    #オロイフ

    月夜の感謝 ナタの空に、ゆっくりと満月が昇りはじめていた。昼の熱気を残したまま、夜は静かに秋の気配を運んでくる。

    「ねえイファ。さっき旅人から聞いたんだ。稲妻では、秋の満月に“秋の実りへの感謝”をするらしい」

     オロルンは庭にある木の椅子に腰を下ろしていたイファへと声をかけた。抱えていた包みを広げると、中には旅人からのお土産──稲妻の月見団子と稲妻茶が入っている。

    「これは……なんだ? 団子と……お茶か?」

    「そうだ。その団子はただ食べるんじゃなくて、満月に見立てて供えるだ。稲妻では収穫した野菜も並べて、秋の実りに感謝するらしい」

    「農耕の行事か。……それなら、野菜を育てているお前にはうってつけだな」

    「そうだな」

     ぱっと笑顔を見せたオロルンは、肩に寄り添うカクークを見下ろす。小さな竜はもふもふの羽を震わせながら「はやくたべるぞ、きょうだい」と、オロルンの髪をつついた。

    「カクークも一緒にやろう」

    「……お前、本当に楽しそうだな」

     イファは小さく息を吐きつつ、わずかに笑みを浮かべた。

     準備はオロルンが率先して進めた。丸皿の上に月見団子を積み上げ、採れたての野菜──大根、カボチャ、キャベツをきれいに並べていく。正しいかどうかは分からないが、旅人から聞いた稲妻の風習を思い出しながら、ひとつひとつ丁寧に手を動かす。

    「……よし、できた!」

     両手を腰に当て、どや顔で振り返るオロルン。隣ではイファが腕を組み、月を仰いでいた。

    「悪くないな。……ナタとは少しやり方が違うけど、こういう風習も面白いな」

    「そうだろ?僕も、野菜の収穫や自然に感謝する風習っていいと思う。雨や土や太陽のおかげで野菜は育つし……あ、カクークのつまみ食いも少しは役に立ってるかもね」

    「なーにデタラメいってんだ」

     すかさずカクークが突っ込み、二人は思わず吹き出す。
     笑いが落ち着くと、三人は並んでお供えの前に腰を下ろした。イファが稲妻茶を淹れると、ほんのり香ばしい香りが立ちのぼる。

    「あ、イファ! 月の中にクビナガライノがいる!」

    「……うーん。まぁ、見えなくもないか」

    「国によって月の中の模様の見え方も違うらしいよ。稲妻では狸なんだって」

     イファは頷き、団子をひとつ手に取った。

    「形の見え方は違っても、どの国でも月に思いを重ねるんだな……感謝とか、祈りとか」

    「そうだね。じゃあ、僕たちも感謝しよう。自然の恵みに、野菜が育ったことに、手伝ってくれたミツムシやカクークに、こうして一緒にお茶会ができることに…………あ、あとキミにも」

    「俺はついでかよ」

     呆れたように返しながらも、イファの口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。

    「感謝、か」

     そのまま視線を落とし、隣の紺の髪を見やる。素直すぎるほどまっすぐな言葉が、どうしてか心にすっと染み込んでくる。

    「イファも、一緒に」

     呼びかけに、イファは小さくうなずいた。

    「……ああ」

     カクークは月を見上げて羽をふるふると揺らし、短く「ありがとう、きょうだい」と鳴く。それが妙に合図のようで、三人は揃って団子を口にした。

     柔らかな甘みが広がり、稲妻茶の渋みがそれを締める。頬をほころばせたオロルンは、月明かりに照らされたイファの横顔をこっそり盗み見た。

    「イファ、おいしい?」

    「……ん、美味いな」

    「ふふ、やっぱり! 君は好きだろうなと思ったんだ」

     そう言いながら、オロルンはまた団子を手に取り、「美味い」と勢いよく頬張りはじめた。

    「落ち着いて食え。詰まらせるぞ」

     イファの忠告が終わるより早く、オロルンは案の定むせ込み、喉を押さえて咳き込んだ。慌てて背を丸める彼の肩甲骨の間を、イファが強く叩く。

    「ほら、言わんこっちゃない」

     お茶の入ったカップを手渡され、オロルンはごくごくと飲み干す。ようやく呼吸を整え、「た、助かった……」と額に汗を浮かべた。

    「ったく……」

     呆れ声を漏らしつつも、その細やかな気遣いがオロルンには嬉しかった。

    「来年も、またやろうね」

    「……そうだな」

    「またたべたいぞ、きょうだい」

     カクークの声が響き、三人は揃って空を仰いだ。そこには、変わらずまん丸の月が優しく照らしていた。
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