17のまま 17の頃に、生まれて初めて愛の告白をした。
今思えば、なんであんな大それたことをしてしまったんだろう。その時、部屋には誰もいなくて。俺たちふたりだけで。ただそれだけだった。どうして口にしようなんて思ってしまったのかなんてわからない。思い余ったとしか言いようがない。マイク片手に肩を並べる度に、背中を預ける度、リズムを合わせる度に少しずつ連なっていった甘くて重いそれ。飯奢ってもらったとかバイクで海に連れてってもらったとか、鼻歌口ずさんでる横顔とか、香水交じりの煙草の匂いとか。本当にささいなことで積み重なってゆくうちに、溢れた感情が勝手に口から零れてしまった。そんな感じ。
しまった、なんて思ってももう遅い。次の瞬間にその人の唇から不要な煙と一緒に吐き出されたのはこんな言葉だった「男のケツに興味ねんだわ」。
部屋の空気が薄くなる。
「いや、そういう意味じゃねっすよ」とか「憧れてるってだけです」とか。誤魔化しようならあったはずだった。でも、息が巧く出来ない。足がすくんで、こめかみが酷く痛んで涙腺はぶっ壊れて、どうしようもなくて。
「あ……そうすか」無理に出した声が震えてて、カッコ悪くて逃げるしかなかった。
情けなくも逃げ帰って弟たちにただいまもろくに言わないで自分の部屋に滑り込む。ベッドに上がったら毛布を被る。やっと息ができる気がした。簡易で温かな暗闇に包まれてしまえばもう我慢することはない。できるだけ、声を殺して。二郎にも三郎にも誰にも聞こえない声で泣いた。一度、溢れてしまったもんはしょうがない。俺の身体は案外たくさん涙を隠していたらしい。 無理に止めようとせずに、泣いて泣いて泣いて、泣き疲れて、部屋は毛布を取っても変わらないくらいにすっかりと陰っていた。暗い部屋の中で目を覚ました結論。愛の告白なんてするもんじゃねえ。もう二度としねえ、絶対に。
決意と共に腹の音が鳴った。まるで芋虫のように毛布から這い出した俺は生まれ変わるしかなかった。蝶になんてなれなかったけどきっと大したことじゃない。俺はあの人が大好きで、こっ酷くフラれた。もうあの人を好きなままの自分ではいられなくなったんだ。だから、これからの人生、二度と恋なんてしないと思う。それだけ。
電気を点けた。暗闇に慣れた目をしぱしぱと瞬かせた途端に、
「兄ちゃん! 平気?」
「一兄! 大丈夫ですか?」
二郎と三郎が雪崩れ込んできた。こちらを心配して潤む瞳がじっと俺を見てくる。ホッと息をつく。良かった。俺はまだまだ笑っていられる。大丈夫、こいつらさえいれば俺は恋なんてしなくたって生きていける。そう思えた。夕飯はニラ玉にしよう。