看病自称『地球最強の男』はつまるところ馬鹿であった。それを名乗った時点で格付けがされてしまう——もちろん良くない意味で、だが——肩書きは存在していて、嬉々として胸を張ったその姿を白い目で見るのも仕方がないことだろう。
だからそんな彼がよもや流行り風邪で寝込むなど、考えられない状況だった。最強じゃなかったのか、いやそれより前に馬鹿はなんとやらと言うじゃないか。そういった皮肉は彼の呆けた顔を見て留まった。
普段の彼の表情は、いつも眉間に皺が寄っていた。笑うときですらその眼光が薄らいだことはなく、いわゆる「厳つい」顔の男だった。それが今や童子のようにゆるやかな額をしていて、今更ながらに彼は本来あどけなさの残る顔つきをしていたのだと知った。おそらく本人も意識したことはあるまい。
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