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    ソーコ

    @soko_brakawani

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    ソーコ

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    チェンゲ竜馬の怪談

    監獄 季節感なんてもんはもうとっくに忘れちまったが、なんとなく聞いてみたらどうやら"今"は地球だと夏にあたるらしい。
    夏って言やあ思い出すのは、地元の花火の音だな。車なんてロクに走ってねえ、たまに見かけると思ったらどっかの農家の軽トラかトラクターぐらいのクソ田舎だったもんだが、花火大会がある日だけは珍しく賑わっててよ。
    まあ、俺はいつも山ン中だったし、祭りに行きたいなんて言い出せば親父に首根っこ掴まれて滝の底へ放り込まれたもんだから、音しか聞いたことはねえんだがな……それに蒸し暑い夜の水浴びも結構気持ちいいもんだった、ひんやりして……。
    そういや「ひんやり」で思い出したが、隼人、お前月面基地にいる時に怪談話してたよな。すげえ怖いやつ。なんだっけあれ、船に水入れて沈めてくる……ああなんだったけか、思い出せねえな、クソ……。
    代わりに俺の怪談でも話すか? 折角夏なんだし、こんな場所でも退屈凌ぎにはなるだろ。どうせ次の戦いが来るまでの間だ。
    これは俺がA級刑務所にいた頃の話なんだけどな……なんだよ、隼人。そんな顔すんじゃねえよ。めんどくせえなお前。ま、知っての通り刑務所ン中は地獄みてえなとこでな……陽の光なんざ当たらねえ。死んでるんだか生きてるんだか分からねえ奴らが倒れてるもんだから、そりゃ臭え。最初に入った時はこれが一番キツくてよ、ゴミみてえな食事でもまず周りの臭いが酷くて食えたもんじゃなかった。
    そんな状況だから、体が動く奴でも"まとも"じゃねえ。俺がブチ込まれてどれくらいだったか……次に入ってきた奴は初日こそ「どこそこの奴らを××××人殺した」「俺は歴史上最も偉大な犯罪者だ」なんて謳ってた奴だったが、三日経てばもう人間の言葉なんて喋っちゃいなかったさ。「薄汚い×××人の首を刎ねてやった」と自慢してたその腕でこめかみを搔きむしりながら、どっかの宇宙と交信してるみてえなことをホニャホニャブツブツと……宇宙どころか、地上だって遠い場所に閉じ込められてんのにな。くだらねえ……。
    あんだよ弁慶までそんな顔すんなよ。別に恨み言ってワケじゃねえ。ほら、逆にな、"どうして俺が正気だったのか"って気になるだろ?
    そうだな。最初は……囁き声がしたんだよな。耳元で確かに「うるさいよ」って誰かが言った。牢獄ん中は贅沢な個室なのに、だ。振り返ったところで誰もいやしねえ。
    その時はもうすっかり慣れちまって、どいつがどこと交信してようが聞き流せてたけどよ、そいつは耳の近くで突然囁くもんだから最初はキレてたぜ。眠気に襲われてたときに囁き声で一気に起こされた時はマジでキレそうになってたな、目の前に犯人がいたらその顔を鉄格子にはめ込んでたぜ。
    ああ、鉄格子の顔といやあ、あいつは……たぶん釈放される前くらいだったか? 隣の牢の奴が叫び声を上げて目が覚めたら、俺の檻の前でこっちをジッと見てる奴がいたんだ。
    もちろん看守なんかじゃねえぜ。だってそいつは首から下が無かったんだ、ツルッパゲの青い顔がすげえ形相で俺を見てたからよ、こっちも「ンだコラァ!!」って声かけたら突然消えちまってな。文句あるなら言やぁいいし、檻の外から見てるだけなんてよっぽど臆病なヤツなんだなと思ったぜ。
    それと反対に気丈な奴もいたな。向かいの檻に新しい囚人が入った時なんだけどよ、こいつがとんだクサレ外道で……ガキを襲いまくった奴だった……聞きたくもねえのに下品な話をベラベラとするから、一回だけ檻を捻じ曲げて向かいに行ってぶん殴って黙らせたくらいにはうるせえ奴だった。それ以降は話すことも無かったんだが……ある日、客が来たんだ。
    そいつは白いワンピースの、たぶん十歳もねえガキだ。客っつったってそんな場所に面会なんてできるわけもねえ、汚ねえ牢獄だっつーのにそのガキは全然気にせずに歩いてよ、そいつの檻の前に立って笑ってやがる。くすくす、みてえな、そんな感じにな。それで気が付くと消えちまってるんだ。
    なんてったってそんな奴のところに来る? 理解したのはそっから数日くらい経ったあとだ。もっとも日数なんて確かじゃねえが、寝て起きてそいつを見るのを何回か繰り返した。
    そのガキが来るのは、いつも向かいの囚人が寝てる時だった。ガキが檻の前に立つと寝ているそいつは胸を抑えて苦しみ出す。ウンウン唸って「やめてくれ」だの「助けてくれ」だの言ってよ……ガキはそれを見て笑ってるんだ、くすくす、ってな。
    そりゃ恨みは沢山買ってる外道だが、目の前でそんなもんを見せつけら続けた側にとっちゃ堪ったもんじゃねえ。日に日に苦しみかたも酷くなってきてよ、俺も見てられなくなって「おい!」って声かけたんだよ。
    ガキがこっち向いた。初めて顔を見たなってそん時気が付いた。なんせそのガキの目、真っ黒だった。
    その後ろの囚人は、俺の声で起きたんだろうな。寝ぼけながらもまだ苦しんでて……、
    「ごめんなさい」って言ったんだ。
    最期の言葉だった。それきり二度と動きやしなかった。ガキは俺の顔見てよ、微笑みながら消えてそれっきりだ。たまに来る看守が気が付いたのかいつの間にかそいつの死体もどっかに運び出されていなくなっちまった。
    A級刑務所なんざ囚人以外だーれも来やしないと思ってた場所だったが、きっとそいつらだけは入ってこれたんだろうな。もしくは、投獄される時に一緒に着いてきてたのかもな。
    だってよ、どんな地獄だろうが奴らにとっちゃ家みたいなもんだろ? 死んだのならもう怖いもんはねえ、復讐でもなんでも好きにできる。
    そういう奴らを沢山見てきたぜ。おかげで発狂する暇なんてなかった、ああ、狂ってると思われてたろうな。だがそこにいて意志がある奴に話しかけてなきゃ、正気を保つことなんざできなかった。幻覚だったとしても、誰かいてくれりゃ……俺を見てくれる奴がいてくれりゃ、そこに俺がいる証明になる。そうだろ?
    今も同じだ。こんな永劫の戦いなんて狂った宇宙に居続けるなら、俺たちは身体か魂が擦り切れるまで正気でいる必要がある。たとえ仲間が死んだって……側には誰かがいてくれなきゃならねえ。喋りつづけてなきゃならねえ……。
    もっとも……奴らは言葉を喋りはしなかった。ただ、そこにいて俺を見るだけだ。

    なあ、教えてくれよ隼人……お前が月面基地で語ってたあの怪談の名前……。
    もう俺は思い出せねえんだ……。教えてくれよ……。
    隼人……弁慶……。
    誰か……。

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