板擦り安養寺「ひめっち遊びに来たよ~」
「姫芽ちゃん一緒にゲームしない~?」
ひめっちの部屋のドアを三回ノックして返事を待つ。隣のめぐちゃんの手元にはルリの家から持って帰って来たボードゲーム。
盤面に壁を立てたりコマを進ませるかをしてより早く相手の陣地へ移動した方が勝ち……っていうシンプルながらに奥の深い対人ボードゲーム。こいうのをなんていうんだっけ、二人零和ゆーげん**要するに運の絡まない1on1の真剣実力勝負のボードゲーム。
こういうゲームならひめっちとも楽しめるかもなと思ってルリが年末年始の帰省のついて出に家から持って帰って来たんだよね。
さて、ノックして数秒、バタバタと足音を立ててひめっちが扉を開けてくれた。
「すみませんお待たせしましたぁ~、ゲームに誘ってもらえるなんて光栄です! ささ、上がってください」
「は~い、お邪魔しま~す」
「ありがとひめっち~」
出迎えてくれたひめっちがルリ達の前を歩いて部屋の中へ案内してくれる。
ただ、途中で申し訳なさそうな顔をしながら振り向いて、両手を合わせて謝って来た。
……あれ、南ア指サックつけてる?
「でも来てもらって申し訳ないんですけど実は今ちょっとアタシゲームを始めたばっかりで……しばらく時間貰ってもいいですか?」
なるほどね、ちょっと慌てた感じの足音だったのはやっぱりゲームしてたからなんだ。
「いいよいいよ、私たち隣で見てるからさ」
「おーきーどーきー、むしろ今手を開けちゃってるのも大丈夫なの?」
試合の合間のクールタイムだったりするのかな。
まさか今頃ルリ達のせいでハチの巣にされちゃってるんじゃ……? と心配したけどそれは杞憂だったみたいで。
「それなら大丈夫です、スクステやってるだけだったんで」
「それなら良かっ……え? スクステやってたならそれこそ大丈夫なの?」
「……? 大丈夫ですけど……?」
不思議そうに首を傾げるひめっちとめぐちゃん。
スクステってあのスクールアイドルステージだよね……?
ルリ達スクールアイドルの写真がカードになって遊べるミュージカルカードゲーム。通称スクステ。ルリ達も去年に遊んでみた動画を上げてみたこともあったっけ。
道理でひめっち指サックをしてるわけだと合点がいった。
「まぁいいや、姫芽ちゃんが大丈夫ならいいんだけど……お邪魔しまーす」
「はい~」
ひめっちの部屋に入れば机の上にはスタンドに立てかけられた一台のタブレット端末と……カウンター……?
ゲーム画面をちらっと見て見ればポーズ画面になっている。そう言えばスクステって一時停止できるんだったっけね。
「じゃあ……十分十五分くらい時間貰いますね」
ふぅ、と袖捲りして深呼吸するひめっち。……え? 十分? 一曲プレイするだけだよね?
「そんなに時間かかるっけ? 一曲遊んだら終わりでしょ?」
「え? むしろ十分は結構早い方なんですが……?」
う~ん、なんか ルリ達とひめっちの間で何か認識に齟齬が合うような気が……
「まぁとりあえずルリ達待ってるからさ、気にしないで一曲済ませちゃいなよ」
「すみません~」
へにゃりと謝ったひめっちが目を伏せて深呼吸、見開いた目は闘志に満ち溢れているいつものひめっち。
水色の戻るボタンを押せばゲーム再会。指サックを嵌めた指を構えて……んん? ひめっちなんかすごい体勢でゲームしようとしてない?
右手はカードが並んでいる画面の下半分にの位置に添えられているけど問題は左腕。左手はタブレット端末右上を抱え込むようにして構えている。
「姫芽ちゃんすごい体勢でプレイするね? 肩とか凝っちゃうんじゃない? それ」
「大丈夫です~これが一番やりやすい姿勢なんで」
「絶対そんなはずないと思うけど……」
心配するルリ達へへらりと返事して、ともあれゲーム再会。
「ふぅ……っ!」
ゲーム再会のボタンを押せば曲が流れだし……たと同時に画面右上の梢先輩のSPを起動させるなりまた瞬時にポーズボタンを押して画面を停止させるひめっち。
ポーズ画面の裏で笑みを浮かべるこずこずパイセンのSDキャラがその場で固まっていて妙にシュールだ。
あまりに速い手の動き、ルリじゃなきゃ見逃しちゃうね……じゃなくて。
「嫌ひめっちルリ達に遠慮しないでゲームしていいからね?」
「え?」
「え?」
再びルリとひめっちの間にヘンな間が生まれる。
「遠慮なんてしてませんよ……? 見ての通り全力でプレイしてます」
「それならいいけど……」
再びタブレットに向き直って体を炒めそうな体勢に戻るひめっち。
一時停止を解除してひめっちのカードを切る。手札が全部リシャッフルされて手札が六枚に。そしてすかさず一時停止。
解除して小鈴ちゃんのカードえを切って一時停止。
解除して吟子ちゃんのカードを切って一時停止。
解除してルリのカードを切って一時停止。
解除して吟子ちゃんの効果で出したドレスカードを切って一時停止。
解除してもう一枚ドレスカードを切って一時停止。
解除して沙知先輩のカードを切って一時停止……
解除して一時停止。解除して一時停止。解除して一時停止。解除して一時停止……
そのたびにブツ切りされてしまうDream Believers。……これホントにドリビリだよね? イントロクイズしてる気分になってきた。
「ごめんひめっちなんでそんなに一時停止してばっかなの!?」
ゲームの邪魔するのも悪いかなと思って見守ってたけど、流石にこの光景はだいぶ異常だとルリ思う。故にルリあり!
「あ、そう言うことですか」
合点が言ったような顔をするひめっち。手元でカードを切っては一時停止してを繰り返している。
「APと時間がもったいないからですね~、ほら、こうして一時中断しないと次に使いたいカードを考えている時間って全部ロスになっちゃうじゃないですか」
音楽に合わせてプレイするミュージカルカードゲームのはずだよね!?
理屈はわかったけどもはやゲーム性完全に否定しちゃってるじゃんそれ……
実際今ドリビリが流れているのはわかるけどなんて歌っているのかわかんないしね。
話を聞いていた隣のめぐちゃんが口元に手を当てて、何か思いついたように。
「……それってつまりカードゲームとして遊ぶけど一時停止の指動かすのが早ければ早いほど強いってコトにならない?」
「あ、めぐちゃん先輩ご明察です、今やスクールアイドルステージ、通称スクステはアタシたちの指の動きの速さを求めるゲームになっています」
それ自分で言ってておかしいなって思わなかった? ひめっち。
eスポーツどころか本当に普通のスポーツみたいになっちゃってるじゃん。
「巷ではこのゲームに必要なのはフィジカルと言われていますね」
ルリ達確かにあの配信以来あんましスクステで遊んで無かったけどおかしくないかなぁ。
それでもひめっちは吟子ちゃんのカード……あ、これクリスマスの時に撮影したヤツかな。を遣ってデッキにドレスを沢山入れて、リシャッフルをしてを繰り返す。もちろん一時停止しながら。
これとなりで見てる分には曲がずっと始まって歯と待ってを繰り返すからノイローゼになりそうなんだけど……
「なんかずっと同じこと繰り返してない? ていうか時々使っている手元のカウンターは何?」
めぐちゃんが指さしたのはひめっちの手元のカウンター。
交通量を調査したりだとかに使う、ボタンを押すとカシャカシャと数字が増えていくヤツ。時折ボタンを押してカウントしているからこれもスクステをプレイするのに必要なのかも。
「うし、四回……! あ、何か言いましたかねめぐちゃんせんぱい」
「あ、邪魔しちゃってごめ……なにその数字怖」
めぐちゃんが申し訳なさそうに謝るけれど、頬を引き攣らせてドン引きしている。
ルリも一緒にひめっちの画面を覗き込めば、ハートの横にいちじゅうひゃくせんまんじゅうまん……!? 見たこと無い数字が出てるんだけどなにこれ!?
「ひめっちバグ技とか使ってる!?」
「いえ使ってませんけど」
「いやそれラブアトラクトの数字だよね? おかしくない? 私の知ってたスクステと桁が三つくらい違う気がするんだけど」