11月29日師走はお坊さんの偉い人たちが東奔西走忙しい時期だから、あっちこっち走り回る様をあっという間に過ぎ去っていく感覚に例えた当て字の月名だと聞いた事がある。そう言うんなら今年はずっと師走だったなぁ・・・いや、おひいさんに出会ってからずっと師走か。などと目前に迫る12月への所感を何気なく休憩中、日和に話した事がはじまりだった。
「え、ジュンくん、もうすぐ12月だって思うとそんな感想になるの?お年寄りじみているね?」
いつもの事ながら、失礼な物言いに抗議の気持ちを込めてジュンは隣に座る日和をジトリと睨む。
「だって、12月だよ?みんなが楽しみにする一大イベントがくるね?」
「一大イベント・・・っすか?あぅ?大掃除?・・・は楽しみじゃねぇか・・・」
的外れなイベント名を挙げたジュンに日和はあんぐりと口をあけて呆けてしまった。まさか12月と聞いて一番最初にあのイベントがでない子がいるだなんて。しかも、こんなに近くに。
「クリスマスに決まってるね。街はキラキラと華やかになるし、家族も恋人も友人たちともどこか暖かくて素敵な時間を過ごせる一日だね。」
クリスマスへの感じ方をそのまま伝えると、今度はジュンがぽかんとした後、気まず気に口を開いた。曰く、クリスマスというものをイベントとして体験したことがないと。
そんなことがこの現代日本においてあり得るのかと思わなくもなかったが、今日までに伺い聞いていた自分に出会うまでのジュンの生い立ちを考えると悲しいことに不思議な事でもないかと簡単に納得してしまう。
とはいえ、人に夢を売る仕事。アイドルとしてはクリスマスというイベントをすぐに思い浮かべられないことはマイナスになってしまう。・・・それに、恋人としてもクリスマスの幸せな気持ちというものはやはりジュンに分け与えてあげたい。
「わかったね、ジュンくん!ぼくがきみにとびきりのクリスマスをプレゼントしてあげるね!」
「え?クリスマスをプレゼント・・・っすか?」
またも隣ではてなをたくさん浮かべるジュンくんを見てくすりと笑みが盛れる。
「クリスマスは当日だけが楽しいイベントじゃないからね。ジュンくんはしあわせになる覚悟をしておくといいね。それじゃ、早速準備しなきゃ!」
そういえば、なんでこんな話になったんですっけねぇ?と疑問をひとつ増やしてみるも隣で意気込む日和はきっと答えてはくれない。こうなったおひいさんは止められないと早々に好きにさせる方向に舵を切る。楽しみだなと思う気持ちはまだ隠しておきたい。