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    梨愛(りあ)

    @kihuyukimai0201

    WBひいうめ、さこいぬ、とみとが

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    梨愛(りあ)

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    さこいぬ

    そういう意味でオレのことを好きらしい 佐狐さんから告白されて付き合い始めた。


    この話を兎耳山さんと十亀さんにした時、二人ともビックリしていた。てっきり逆だと思ったよぉ、と十亀さんは目を瞬かせていたし、さこっちゃんカッコいいね! どんな告白だったの? と兎耳山さんは目をキラキラと輝かせていた。

    きっと佐狐さんはオレが告白された話を二人に話したことを知ったら怒るだろうなぁ。わなわなと肩を震わせて、照れながら殴ってきそうだ。そう思ったから流石に秘密で、と詳しく話すことは止めた。まぁ、佐狐さんから告白されたと言っただけでも、もしかしたら手遅れかもしれない。







    あれは珍しく佐狐さんに祭りに行かないか? と誘われて行った夏の日。誘った癖に佐狐さんは心ここにあらずというか、いつも少ない口数が更に少なかったことを鮮明に覚えている。佐狐さーん? と呼び掛けても、間が空いてからしか返事がなくて少し心配だった。休憩します? と聞いてみると、何故かそれには食い付きがよくて、休憩しようと引っ張られるように連れていかれた神社の木の下。


    佐狐さんの綺麗な手がオレの手首をぎゅっと掴んだ。ひんやりしてる。佐狐さんっぽいな。なんて呑気に考えていると、佐狐さんが「す」を連呼し始めた。


    「す、すすすす」
    「す? すがどうしたんすか? すのつく食べ物なんて屋台にありましたっけ? あ、スーパーボールすくいとか?」
    「バカ、違う! 好きだ!」


    あ、と佐狐さんは溢した後に、クソ、とかこんなつもりじゃと呟いていた。薄暗くてよく見えなかったけどきっと眉間にシワが寄っていたと思う。


    「すき……」


    全然頭が追い付いていなくて、佐狐さんの口から出た言葉を意味を確かめるように繰り返す。すきって、何だっけ? すき、すき。答えにたどり着く前に佐狐さんが、れ、恋愛的な意味の好きだからな! と怒ったように言った。


    「恋愛……、誰が誰を好きなんすか?」
    「オレが! お前を! に決まってるだろ」


    握られていた手首が解放されたと思ったら、胸にドスと拳をあてられた。そこでようやく佐狐さんの言っている意味が理解できて、えぇ! と大きな声をあげてしまった。


    「佐狐さんって、柊さんのことが好きなんじゃないんすか?!」
    「だっ、誰が! べべべ、別に柊さんはそういうのじゃねぇ! あの人には、思うところは色々あるけど、キスしたいとかは全く思ったことねぇよ!」


    もう一度飛んできた拳はさっきよりも重たかった。痛い、と口から溢すと、佐狐さんはふんっと鼻をならしていた。


    それにしても、佐狐さんって柊さんのことが好きだと思っていたけど違ったのか。キスしたいと思ったことないって、つまり告白されたオレにはキスしたいって思ったってこと? あの佐狐さんが?


    ぼんやりと佐狐さんにキスを迫られる光景が浮かんでしまって、振り払うように首を左右に振る。なんか、めちゃくちゃ熱くなってきた。


    「うっ、えっと、オ、オレはどうすればいいんすか?」
    「お前……、オレに聞くなよ」
    「や、わかってるんすけど、オレ、佐狐さんのこと今初めて意識したというか、だからぐるぐるしてて、わかんないっす」
    「……じゃあ、とりあえず付き合え。それから無理かどうか決めろ」
    「はい!」


    思わず反射でいつものように返事をしてしまい、佐狐さんはお前、本当にバカだな、と何故か呆れていた。
    そっと佐狐さんの手が、オレの頬に触れた。それだけでバクバクと心臓がうるさい。切れ長の瞳がじっと見てくるから、思わずギュッと目を瞑った。佐狐さんは低く唸るようにお前……、と呟く。目を瞑るのはまずかったかな、と目を開けようとした瞬間、ふにゅりと柔らかい何かが唇に触れた。


    「っ!」


    見開いた先に見えたのは、佐狐さんのドアップ。すぐに離れていったけど、あれ、今オレ、キスされた? 自分の唇に触れてみる。さっきよりも、心臓が大きく早く鳴っている気がする。それなのに祭りに戻ろうとしているのか、オレに背を向けた佐狐さんは普通に見えた。


    「行くぞ」
    「えっ、あっ、はい!」


    佐狐さんに言われるとつい返事をしてしまう。まだ全然頭が追い付いていないけど、早く行かないと置いていかれると思い佐狐さんの斜め後ろまで駆け寄る。


    佐狐さんは一瞬オレの方を見ると、お前警戒心なさすぎだ、とでこぴんを食らわせてまた前を向いた。





    それから夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬になっていた。赤や黄色に染まっていた葉は枯れ落ちていて、木も寒そうに見える。


    オレと佐狐さんの関係はあの夏の日から、少しずつ変化していた。


    佐狐さんはまめな人だ。付き合うと返事をした日からメッセージが毎日届くようになった。はよ、と朝の挨拶から始まり、趣味らしいカフェ巡りで見つけたオレが好きそうなメニューを送ってきたり、オレが好きそうな映画を見つけてきたりとそんな感じだ。
    そんなメッセージがオレは案外好きで、佐狐さんってオレのこと本当に好きなんだなぁとジワジワと実感させた。


    デートに誘って来るくせに、相変わらず口下手なのも佐狐さんらしい。まぁ、デートしようと明言して誘われたことはないけど、行くぞ、と連れていかれた所が映画館だったり、ショッピングモールだったり、動物園や遊園地の時もあった。


    帰り際に人気のないところへ連れていかれて、キスをするのも当たり前になっていた。




    今日もオレの観たかった映画を観て、佐狐さんが見つけてきた新しいカフェへ行って、まさにデートみたいな1日だった。店の外に出ると寒くて身震いする。佐狐さんは寒がりなのか、タートルネックにコート、更にマフラー、手袋と完全防備だ。オレはどちらかというと暑がりだから、ヒートテックに、トレーナー、ジャンパーという格好で、会った時、佐狐さんに見てるこっちが寒いと眉をひそめられた。


    いつものように人通りのない道ヘ歩きだす。この後の事を考えると少しソワソワするのは仕方がないことだ。佐狐さんは言葉にする時は照れる癖に、こういう時はいつも澄ましているから何を考えているのかわからない。


    「……なんだ?」
    「うぇ? んー、佐狐さん何考えてるのかなーって」
    「……そ、んなん、わかるだろ」


    急に頬を赤らめた佐狐さんは、チッと舌打ちをするとマフラーを鼻辺りまで上げてしまった。あぁ、佐狐さんもこの後のこと考えてたんだと悟って、つられるようにオレも頬に熱が集まる。


    そのまま、あまり話すことなく佐狐さんはスタスタと早歩きで進んでいく。辿り着いたのは佐狐さんに告白された神社だった。夏でもないので辺りに人は全然見当たらない。生い茂っていた葉っぱや蝉の声もないから、別の場所のようにみえた。


    「ここ久しぶりに来たっす」
    「……そうか」


    佐狐さんに引っ張られ、木に押し付けられた。あ、これあの日と全く同じ場所だ。と思っている隙に近づいてくる顔に、オレは相変わらずギュッと目を瞑る。佐狐さんも、初めての時と同じように頬に手をそえた。いつの間に取っていたのか、手袋の感触ではなく、冷えた佐狐さんの指がゆっくりと優しく頬を撫でる。これだけで心臓が爆発しそうだ。


    「おい、犬上」


    いつもならそのままキスされるのに、今日は珍しく呼び掛けられた。そっと目を開くと佐狐さんの鋭い目がオレを見つめていた。


    「……これ、されるの、嫌じゃないのか?」
    「今更っすね」


    佐狐さんは何も言わなかった。もしかしたら頭の中では何か言ってるのかもしれないけど、この人話すの下手だからあえて口に出していないのかもしれない。悲観的に捉えていそうなことだけは、苦々しい顔をしているから察することはできる。


    「嫌ならとっくに拒んでますよ」


    佐狐さんの手の上に自分の手を重ねる。頬に触れていた掌に、顔を少しずらしてチュッと軽くキスをしてみた。


    「オレも、したいって思ってるんで遠慮しないでください」


    佐狐さんは首から真っ赤に染まっていた。口を開けたり閉じたりしていて、なんだか面白い。あ、そういえばまだこれも言ったことなかった。折角、佐狐さんに告白された場所だし、言うタイミングとしてはバッチリな気がする。


    「佐狐さん、オレも好きっす」


    言った瞬間、気がついたら唇は奪われていた。いつもは軽く触れるだけのキスもなんだか長くて息の仕方がわからない。佐狐さんの舌がオレの口の中に入ってきて、上顎をなぞられたり、舌を絡めとられたりと好き勝手に動く。


    「ぁ、んぅ」


    足に力が入らない。それと息ができなくて、苦しくて佐狐さんにすがるように服を引っ張るとようやく唇が離れた。


    「っ、はぁ、はっ、佐狐さん、急になんなんすか」


    口の端からよだれが垂れる。それを拭って佐狐さんを見ると、佐狐さんに睨み付けられた。


    「お前が急になんなんだ!」
    「えぇ?! オレはそういえば言ってなかったなぁと思って。……イヤでした?」
    「んなっ」


    わけねぇだろ、と尻すぼみになっていく声に思わず口角が上がる。


    「じゃあいいじゃないっすか」
    「お前は、本当に……」
    「でも、そういうオレが好きなんすよね」


    ニッて笑って見せると、バシンと背中を思い切り叩かれた。
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