ガチャリ、とドアの音がするとすぐさま背後からぎゅっと抱きしめられた。
「おかえり」
「ただいま桐生さ――」
すうっ、と息を吸い込むと嗅ぎなれた柔軟剤とはまた別の匂いがし、言葉を飲み込んだ。
「桐生さん、アンタまた誰かと会ったな」
「…よく分かったな」
呆れたようなため息を付いて最後に水ですすいだ皿を水切りかごに置いて手を拭くと大吾に向き直る。優しく頬を撫でながら安心させるように呟く。
「シンジに会ってただけだ」
「桐生さんの舎弟ですよね…。この前は違う奴に会ってたしぜってぇアイツら桐生さんの事イヤラシイ目で見てんだろ許さねぇ…桐生さんは俺のだ…」
一人で暴走し始めた大吾を宥める為にリビングに移動し、冷蔵庫からビールとつまみを持ち出す。座る時もぴったりくっつくように座るので大人になっても妙に子供らしいところは残ってるな、と苦笑いした。
「桐生さんってさ、年下に好かれるよな」
「どうした?」
ビールを片手に大吾は膨れたような顔をした。まだ嫉妬しているような目を向けている。
「舎弟もそうだし、あの大阪の金髪ボンボン野郎も…桐生さんに懐きやがって…クソッ」
「落ち着け、溢れるだろ」
グシャッとビールの缶を潰しそうな勢いで拳を作る。良く見ると目元には隈が出来ており、余程疲れているのだろう。いつもより酔いが回るのが早いらしく今度は「桐生さーん」と甘えるように抱きついてくる。何だか昔を思い出し思わず笑みが溢れ、顔を引き寄せると軽く口付けた。
「えっ……は、?」
「す、好きでもない奴にこんな事はしないだろう…?だ、だから…」
「〜〜〜〜〜ッッ!!!」
自分で仕掛けておいて恥ずかしくなり顔を背けながらそう言うと大吾は一気に酔いが覚めたらしくがばりと襲いかかった。地面に腕を縫い付けられ身動きがとれなくなるがわざと挑発するように笑う。
「明日、大丈夫なのか?」
「休みもぎ取ってきたから。今夜たっぷりアンタを抱いてやるよ、桐生さん」
先程の不安そうな表情は一切なく、獣のような鋭い目をしながらぺろりと舌なめずりをする。
明日、一日中動けなくなるかもしれないな…、と考えながら身を委ねるために目をそっと閉じた。