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    northsnow3891

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    northsnow3891

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    明治軸でフォトウェディング(?)する鯉月
    20230603-0604 『こいびとは上官につき』展示作品

    #鯉月
    Koito/Tsukishima
    #鯉月webonly0603

    写真の中なら、許してね「軍服以外もなかなか様になるではないか、月島ァ」
    明らかに上機嫌な鯉登少尉の言葉に、どんな皮肉だと鼻白む。
    長い手足に、上背もある。顔立ちも整っている。左頬に刻まれた向こう傷は美観を損ねるどころか、凛々しさを際立たせるの一役買っていた。
    黙っていれば美丈夫で通る年下の上官に「様になる」など言われた三十路の下士官がささくれだった気持ちになるくらいは許して欲しい。

    朝から用があると兵舎から連れ出されてやってきたのは旭川町内にある写真館。訊けば、私用で写真を撮ると返ってくる。釣書の写真でも撮るのだろうか。であれば、俺を連れてくる必要はないだろうが、この時勢に一人で出歩くのは不用心が過ぎるので、護衛として連れてこられたのだろうと勝手に解釈する。俺であれば、他所に漏れる心配もない、という腹積もりもあるだろう。当然の話ではある。俺はこの人の右腕なのだ。
    鯉登少尉の写真撮影がどの程度の時間がかかるかわからないが、漫然と過ごすのも勿体ないので今後確認が必要な資料や面会の必要な人物の洗い出しを頭の中で始めようとした、その時だ。
    「何をぼうっと突っ立っている、月島もこちらにこい!」
    腕を引かれて、連れていかれたのは衣装部屋だった。着物から洋装までとりどりの衣装が並べられ、きらびやかなものから落ち着いたものまで多様に揃えられている。
    「は?」
    「うん。こちらの背広がよいのではないか? 肩幅はよし、足りているな」
    状況を呑み込めずにいる俺を尻目に鯉登少尉が所狭しと並んだ衣装の中から見繕った背広を合わせながら呟いた。…何がいったいどうなっているのか。
    「鯉登少尉殿」
    「なんだ?」
    「私用でお写真を撮るのではなかったのですか」
    楽しそうに衣装を選ぶ鯉登少尉に尋ねる。
    「その通りだ」
    鯉登少尉が短く頷き、
    「私と月島の二人で写真を撮るのだ、だから、月島の衣装も選んでいる。他に質問は?」
    『何故、俺の衣装まで選ぶ必要はあるんですか?』という疑問を先回りする形で返してきた。当然のように『二人で』と言う。こちらからすれば当然ではなく突然のことなのだが、この人もまた言い出したら聞かない性質であった。

    背広ならば鶴見中尉殿との洋行の際に着たことがある。まさか燕尾服まで着せられるとは。完全に馬子にも衣装だと思いながら、揃いの燕尾服を着て隣に立つ鯉登少尉を見遣る。背筋を伸ばし、カメラのレンズを真っ直ぐに見据えていた。
    ああ、この人は。どこにいようと、なにがあろうと、真っ直ぐに前を見ることができる人なのだ。改めて、そう思った。
    「?私の顔に何かついているか?」
    「いいえ」
    視線に気づいた鯉登少尉の言葉に小さく首を横に振った。
    「ところで、これはいつ終わるのですか?」
    既に何着か衣装を変えている。朝早くに写真館に来た筈だが、もうすぐ日は中天にかかる頃だろう。
    「次で最後だ」
    唇の端をわずかに持ち上げて鯉登少尉が答える。俺はその時の鯉登少尉の表情をもう少しでも注視しておくべきだった。

    「あの、これは」
    「うふふ、よく似合ってるぞ」
    紋付き袴の鯉登少尉に尋ねると子どものように無邪気な笑顔が向けられる。その顔はずるい。俺はその顔に覿面弱い。いや、そうではない、そうではない。息を一度深く吸って再度、鯉登少尉に尋ねた。
    「何故、俺が白無垢を着ているのですか」
    紋付き袴の鯉登少尉に対して自分は白無垢を着せられている。ご丁寧に角隠しをかぶせられ、唇には紅まで引かれた。髭面のおっさんだぞ、俺は! と叫び出しそうになった。着付けや化粧を担当した女性は何も言わなかったのがまた痛々しい。
    樺太で少女団として踊った時は、その必要があったから少女団の衣装を着た。 これは絶対必要がないではないか。
    「私が見たかった」
    真っ直ぐに鯉登少尉がこちらを見る。
    「何がいいんですか。おっさんのこんな格好が」
    口から出た言葉は完全に気勢を削がれていて、理由は自分でもわかっていた。
    「衣装の力は侮れんぞ、月島」
    その者に、その関係性に相応しい装いがあるのだと鯉登少尉が薄く笑う。ああ、ずるい、本当にずるい。そんな顔で、そんなことを言われてしまっては強く拒絶することなどできないではないか。まるで、そうするのが当然だと言われてしまっては。
    そうして、紋付き袴の美丈夫と、小さな白無垢のおっさんが同じ画角に納まった写真を終生大事に持つことになったのだ、
    俺たちは。
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