【ユキバン】無題 珍しいこともあるものだ。
テレビ画面をじっと見つめる千に対して、真っ先に抱いた感想はそれだった。
見たい番組があるからテレビをつける人と、見たい番組があるわけではないが、取り敢えずテレビをつけておく人がいる。この二択で言うならば、俺は後者だ。
当然、ニュースや音楽番組など、見ようと思って見るものもある。だが、大抵は何かしらの音を耳に入れておきたくて、テレビをつけっぱなしにしている。
対する千は俺とは逆で、見たいものが無ければテレビは一切つけようとしないタイプだ。テレビ番組に興味が無いというのも大きいだろうが、音楽を作るときに、周りの音が入ってくるとうるさくて嫌なんだろう。俺だって作曲のときには余計な音を耳に入れたくないと思うが、千の場合は俺より音楽に向き合っている時間が長い分、余計にそう感じるに違いない。
そのせいか、俺がつけていたテレビを千に消されるなんてことがしょっちゅうある。家事を片付けながら耳だけで番組の内容を聞いていると、突然、部屋が無音になるのだ。俺の家はポルターガイストのような現象が発生する、いわゆる事故物件などではないから、犯人は一人しかいない。
『テレビ、見てたんだけど』
『画面見てなかったじゃん』
『音だけ聞いてたんだよ』
『そう。うるさいから消す』
『消す前に一言言うくらいしろよ』
なんてやり取りをすることも少なくないが、千にのびのび音楽をやってほしいと思っているので、基本的には大人しくテレビを消されることを享受する日々を送っていた。