【つばやま】熱を孕まぬ愛し君 どんなに若くても、生命力が強そうでも、人は案外呆気なく死んでしまう生き物だと言うことを理解できている人はそう多くない。それは、死は皆等しく訪れるものなのに、何処か非現実的なもののように捉えてしまうからに違いなくて、自分もまた、例に漏れずそうであった。
それだから、その知らせを聞いたとき、にわかに話を信じることができなかった。東雲大和が死んだなど、あまりにも現実味のない話だった。
連絡を受けて急いで病院へ向かうと、人気の少ない廊下に、何処からか誰かのすすり泣く声が響いている。声のする方へと進んで行き、陰気な気配が漂う個室へと足を踏み入れれば、そこには大和の両親や優奈ちゃんの他に、宗介と徹平の姿もあった。
泣き腫らして目を赤く充血させた徹平とは対照的に、宗介は一切の感情をそぎ落とした、能面のような表情をしていて、そんな二人の傍には顔に白い布が掛けられた『誰か』が横たわっている。心臓が、どくどくと早鐘を打った。
布を取って、そこにいるのが誰なのか確認しなければいけないのに、顔を見てしまったら目の前の現実を受け止めなければならないのが恐ろしくて、その場から動けない。入口で立ち竦んだままでいると、俺の存在に気付いた優奈ちゃんがゆっくりと近付き、俺の手を掴んだ。
「優奈ちゃ……」
「早く、顔見せてあげて」
伸びた髪から覗くその顔は憔悴しきっていて、いつもの天真爛漫さなど見る影もない。返すべき言葉が見つからなくて言葉に詰まっていると、優奈ちゃんは俺の手を引いてベッドの方へ歩き出した。
(嫌だ、そっちに行きたくない)
そう思うのに、足には力が入らず、踏ん張りがきかない。半ば引きずられるようなかたちで連れられれば、一歩進むごとに耳鳴りが大きくなって、空調は効いているはずなのに全身から汗が噴き出した。酷く、気持ちが悪かった。
ベッドの傍まで来ると優奈ちゃんは立ち止まり、掴んでいた手を放す。打ち覆いの隙間からは髪の毛が覗いていて、その見慣れた髪色に、呼吸が乱れた。
(違う、そんなわけない。そんなこと、あるわけない)
違う、違う、と小さく呟き続ける俺を尻目に、優奈ちゃんの手が打ち覆いに伸びる。その手が僅かに逡巡した後、意を決したように両手で布の端を摘まむと、ゆっくりとそれを取り上げた。
「っ、あ、あああ──」
そこにいたのは、大和だった。血色の良かった肌は嘘みたいに青白く、血の気が無くて、一切の温かみを感じさせなかった。
「大和、やまとやまとやまと……!」
衝動のままに大和の身体を強く抱きしめれば、現実を突きつけるようなその冷たさに、両眼から涙が溢れる。熱を失った身体が触れた場所から俺の体温を奪っていくような感覚に陥ったが、それで大和がもう一度熱を取り戻してくれるのなら、いくらでもくれてやりたかった。